希望の魔法使い
時を戻して
窓から光が差し込む。
コンコンとドアのノックする音。
ドアを開けるとそこには朱音が立っていた。
「おはよ、美月」
「朱音ちゃん、おはよう」
今日から登校だねと朱音と話していると窓の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
覗き込んだ朱音と美月は声を出して。
「げ」
「あ、涼太くん!」
美月の部屋の真下は玄関の入口。
その入口の前で涼太が元気よく手を振ってこちらに話しかけた。
「お〜い!一緒に行こうぜ〜!」
うん、と返事をし美月は手を振り返した。
「女子寮の前で…あいつ…」
ため息をつきながら頭をかかえる朱音に下に行こうかと話しかけ、2人は部屋を後にした。
「おはよー!」
「おはよう、涼太くん」
「あんたなんでここにいるのよ」
美月ちゃんと登校したかったからに決まってんじゃん!といいながらウインクをすると朱音から冷ややかな視線が流れた。
「よくお部屋わかったね」
「昨日朱音の隣って渚先生言ってたからさ」
そんな美月と涼太の会話にうわ…と朱音が入り込む。
「女子寮誰が何処の部屋か把握してんのきもいな…」
「違うよ!さっき莉真に会った時聞いたんだよ!」
そこまで変態ではなかったかと言う朱音とひどいな〜と言う涼太に挟まれながら美月は学園に向かって歩いていった。
学園に着くと美月は朱音と涼太に問いかけた。
「あ、あの…なんで体育館?」
教室ではなく体育館に案内された美月は疑問を浮かべていた。
「それは美月ちゃんが転入してきたから!」
ますます訳が分からない。
「相変わらずの説明不足…ほら、1クラスの人数少ないから転入生とか新しく来た先生とかいると学年ごとにまとめて話すんだよ」
「体育祭とか文化祭の説明とかも基本はここで話をするんだぜ〜」
学園の人数が少ないとこういうこともあるのか。
そう思っていると体育館の、舞台の方に連れていかれたのだった。
「こほん、静粛に」
そんなテンプレートなセリフを口にした学園長は話を続けた。
「本日より転入してきた…まぁ昨日入学式に出席していた者はわかるとは思うが…桜クラスに所属する事になった、綾小路美月だ」
みんなの視線が集まる中恐る恐る舞台に上がっていった美月。
その反対側には莉真と数人が椅子に座ってこちらを見ている。
莉真は不機嫌な顔をして。
「ほら、挨拶せんか」
そう学園長こと、祖父に促され自己紹介を始める。
「えっと…今日からのどか学園に通うことになりました、綾小路美月です…よろしくお願いします」
ざわざわとざわめきだす。
噂の転入生だの学園長の孫だの、そして四貴族《よんきぞく》らしいと。
学園長が話始めようとして静まり返る。
「これで四貴族《よんきぞく》は我が学園に4人いることになる…同じ歳で同じ学園という滅多にないこと、みなも遅れのないよう気を引き締め勉学に励むよう、以上じゃ」
四貴族《よんきぞく》は毎回同じ貴族の家系から出るのがほとんどだが例外もある。
そう、誰にでも四貴族《よんきぞく》になれる可能性がある。
その称号が欲しい魔法使いは限りなくいるのだ。
「…最近、禁忌の魔法《タブーマジック》の召喚悪魔が活発化していると聞いたが、学園長の孫を四貴族《よんきぞく》と認めたくない者がいるのでは?」
莉真が声を上げた。
「おい莉真、学園長になんて口を…」
隣にいた少年が莉真に言う。
「おそらく四貴族《よんきぞく》になって数ヶ月くらいだろう、同じくらいじゃないのか?悪魔が活発化し始めたのは」
確かに美月が四貴族《よんきぞく》になってから数ヶ月ほどしか経っていない。
その莉真の問に生徒はざわめく。
(禁忌の魔法《タブーマジック》の召喚悪魔…?魔力が高くなきゃその魔法は使うことすらできないはず…)
そんな事を思いながら美月は立ち尽くす。
「禁忌の魔法《タブーマジック》が使えるくらいだ…余程魔力のある魔法使い、限られてくるな」
そんな莉真の話の直後、天井から舞台に目掛けて何かが飛んできた。
生徒達はざわめきだす。
ゆらゆらと黒いもやが辺りを覆う。
それは大きく、禍々しい魔力纏った…悪魔。
「なんじゃ…っ召喚悪魔…!噂をすればと言うやつじゃな…」
そんな学園長の声に続き美月は驚きの声を上げた。
「あ、あれが、召喚悪魔…!?」
体育館にいた全員が驚き騒ぎ出す。
その時先程莉真に注意をしていた少年が立ち尽くす美月の元に駆け寄り手を引いて後ろに下がらせた。
「君、召喚悪魔見たことないのか…!?」
「な、ないです…」
「お飾りの四貴族《よんきぞく》だな、邪魔だからどけ」
そう言う莉真に美月と少年はさらに後ろに下がる。
「…あの悪魔かなり大きいな」
莉真がそう呟くと杖を手に持ち出す。
悪魔は黒いもやを纏い美月達をじっと見ている。
「…あのもやに触ると魔力を奪われるんだ、気をつけて」
少年もそう言って杖を手に持った。
悪魔が大きな雄叫びを上げる。
「…剣魔法《ソード魔法》」
その声の直後、天井から鋭く眩い光が悪魔に落とされた。
「わっ…!」
「なんだ…!?この光は…!」
眩い光の中莉真は何かに気づいたらしい。
「あっ…!」
眩しい光が消えた時。
そこにはもう悪魔はいなく、代わりに1人の少年が佇んでいた。