イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

「……え?」

笑顔を引きつらせる彼女の手を、ゆっくり自分の腕からはがしながら、坂田くんは口を開いた。

「書類を紛失したかもしれない、ゴミとして処分されてしまったかもしれない、そんな大事なことを上司に相談せずに独断で抗議に乗り込んだ自分を棚に上げて、彼女だけを責めるのか? “ドブネズミ”になってまで探し回ってくれたことへ、礼の一つも言わずに?」

「そ、それはその……」

「もしこれが故意だとしたら、懲罰ものの問題だけど」
「ち、違いますっ! ですから、ただのカン違いだってっ! ……だ、誰にだってあるじゃないですかっ、忙しかったから、それでつい……」

まくしたてた西谷さんは、「その割に、定時でさっさと帰ろうとしてたみたいだけど?」と突っ込まれ、ぐ、と口ごもる。

「まぁそれはそれとして、もう1つ」
言いながら、坂田くんはギュッと、その眼差しをひと際きつくした。

「確かにオレたちは、組織の歯車の一つだ。でもな、どんな小さな部品だって、なくなれば全体はうまく動かなくなる。会社は一人じゃ成り立たない。どんな部署のどんな仕事だって、できて当たり前ってことはないし、いなくていい人間なんていない。西谷がそんな風に他部署を見てたなんて、残念だよ」

「…………」

呆然と立ち尽くす西谷さん。
こんな風に真正面から言われるのは、もしかしたら初めての経験なのかもしれない。
立ってるのがやっと、ってくらい青ざめてる。

< 222 / 539 >

この作品をシェア

pagetop