イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

自分の上着をわたしに着せてくれたんだとわかって、心臓がどっと騒ぎ出した。

「あ、ありがとう。でも大丈夫。わたし、今汚いから。上着、汚れちゃう」

抱きしめられてるような錯覚に陥って、これはまずいと震える手で返そうとしたんだけど。

その手が、彼に掴まれた。

「車で送る。家まで」
「や、あの……そんな、いいよ」

「頼む。送らせて。送るだけだから」

注がれる、混じりけのない真摯な視線に、さっきの“告白”が蘇る。

「っ……」

な、何ドキドキしてるの。

わたしに夢中とか、出世なんてクソくらえとか。

あんなの。
西谷さんを牽制するための、ただのパフォーマンス、リップサービス。
“ドブネズミ”を憐れんで、かばってくれただけよ。

だってわたしたちは、ただの気楽な、“お試し”な関係なわけで……本気なわけじゃなくて。

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