イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
結局、夕食を作ったのは坂田くんだった。
というのも。
部屋に入るとすぐ「美弥子は早くシャワー浴びたいだろ? オレが適当に、何か作っとくから」って追い払われてしまったから。
「え、だって誘ったのわたしだし、わたしが作るよ」というごく当然の抗議は、「行かないなら、今ここでオレが脱がせる」
とかなんとか、意味不明な脅しに瞬く間に屈し、わたしは悲鳴を上げて逃げ出した。
そしてシャワーを済ませ部屋着に替えて戻った時にはもう、野菜たっぷりのリゾットが湯気を上げて待っていた、というわけ。
「う、……おいしいっ!」
カウンターテーブルに坂田くんと並んで腰を下ろし、食べ始めると。
スプーンが止まらなくなった。
塩加減は絶妙だし、あっさりめの優しい味もわたし好みで……とにかくものすごく美味だったから。
「料理教室の時も思ったけど、坂田くんて相当料理してるよね」
「一人暮らし長くやってりゃ、誰だってこれくらい作れるだろ」
「そんなことないよ。外食だらけの人だっているんだから」
力説して、また一口。
「……はー……あったまる。幸せ」
思わず頬を押さえながら言って……ふと視線を感じた。
気になってチラリと隣を伺えば。
くすくす可笑しそうに肩を揺らす彼がいる。
「ほんと、美味そうに食うよな。子どもみてぇ」
穏やかな眼差しと、和やかな会話と。
それはまるで、時間が巻き戻ったみたいで……
自然とわたしの頬も緩んでしまったんだけど。
次の瞬間、その心地よさを手放すことに決めたのだと思い出して、きゅっと胸に痛みが走る。
こんな時間も、今日限りだ。
スプーンを持つ手に力を込めて、シンと冷えた心の中で繰り返し。
その後は無言でただ、食べることに没頭するふりをした。