イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
「すみません、携帯を会社に忘れてきてしまったので戻ります。ここで失礼しますね」
店を出たところで頭を下げると、他の3人はどこか不満げだ。
特に、黒部さんと2人きりになりたいだろう恵美の視線は、かなり尖ってる。
「んなの、明日でええやん。1日くらいどうにでもなるやろ」
「ケースにスイカも入れてるから。ごめんね、わたしに構わず帰って」
そう言って、返事も待たずに足早に離れた。
携帯を忘れたのは本当だけど、お財布は持ってるし、なんとかならないわけじゃない。
でも、河合さんとは最寄り駅が同じ。
つまり、一緒に帰らなきゃならないってことで……。
それはちょっとしんどいな、って思ってしまったんだ。
◇◇◇◇
ビルの正面玄関はすでに施錠されているから、この時間の出入りは裏の通用口を利用する。
警備員室の前を通りかかり、そこに見知った顔を見つけたわたしは、頭を下げた。
「お疲れ様です」
モニターの前に座っていた中年の男性が、「あれ、あんた」と赤ら顔を綻ばせた。
以前多恵さんと一緒に書類を探してくれたおじさん――近藤さんだ。
「ええと、たしか総務の姉ちゃん……」
「中村です。近藤さんは夜勤ですか?」
「そうそう。中村さんはこんな時間まで仕事なのかい?」
「いえ、ちょっと携帯を忘れちゃって。取ってきていいですか?」
「どうぞどうぞ。一緒についていこうか? 真っ暗なところもあるから、怖いかもしれない」
立ち上がろうとする近藤さんに、慌てて両手を振って辞退した。
「大丈夫ですよ、残業することもありますし、慣れてますから」