イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
――謝るつもりはないから。
昼間彼が残した言葉を思い出し、わずかに速まる鼓動を意識しながら、マドラーでわざとゆっくりカクテルをかきまわした。
口に含むと、冷たい液体が止める間もなく喉を滑り落ちて行って、咥内に甘い後味が充満する。
カウンターに肘をついてトロピカルカラーに染まったグラスを眺めながら、まるで彼のようだと、ぼんやり考えた。
ずるいよ、坂田くん。
どうしてあんなことしたの?
気まぐれにしても、ひどすぎるよ。
好きな人がいるんでしょう?
それとも彼女は、坂田くんが外で何しようと動じない、よっぽど大人な、できた女性ってこと?
でもね。
こっちはせっかくただの同期に戻ろうって、がんばってるんだよ。
なのに、あんなキス、されちゃったら……
今までの努力が水の泡になっちゃうじゃない?
おかげで残りの一日、全然仕事にならなかった。
まぁそれは、八つ当たりだけど。
吐息をついてから、チラリと背後を伺った。
週半ば、平日夜のブルームーンの店内は、わりとすいてる。