イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
でもあの様子だと、もう忘れてるかもしれない。
あのキスも含めて、わたしとのことなんて記憶に残す価値もないだろうし……。
なんだ、悩むことなかった。
罪悪感を抱えてモヤモヤしていた自分がバカらしく思えてしまい、肩から力が抜けた。
「ねえねえ……坂田くん、こっち見てる気しない?」
梓沙さんが振り返り振り返り、そんなことをつぶやいていたけど。
まさか。
あるわけない。
笑いながら首を振ったわたしは、「気のせいですよ。行きましょう」って、梓沙さんを促した。
「そうかなぁ、なんか、ほんとにこっちをじっと……ねえ、中村さんのこと見てるんじゃない?」
いやいや、彼がわたしを気にするはずがない。
わたしなんて、その他大勢の一人で、道端の小石だ。
「ほら、遅刻しちゃいますよー」
カバンを探って社員証を取り出し、振り返らないままセキュリティゲートへ向かった。