イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
「え? わたし……?」
軽く頷いた流さんは、静かな眼差しをわたしへと注ぐ。
「『厄介な女に惚れちまった』ってぼやいてた。君のことだろう?」
厄介な、女……?
意味深なキーワードに、ざわめいていた鼓動は一瞬で凪いだ。
イブの夜のツーショットが脳裏をよぎる。
酔っぱらった美女と、心配し介抱する坂田くん。
「それは……わたしのことじゃありません」
苦く笑ってぼそりと言い、ズキンと走った痛みを紛らわせるように唇をきつく結んだ。
彼の“惚れた”女が“厄介”だというなら、あの泣きボクロの美女は、やっぱり訳アリの人妻なんだろう。
タトゥーの男がどう関わってくるのかは、未だにわからないけど……。
心配そうに振り返り振り返り、流さんが立ち去ってしまっても、しばらく顔をあげられなかった。
わたしじゃない。
わたしじゃ……
スプーンを手に取って、カスタードプリンへと突き刺した。
わずかな摩擦もなくするりと滑らかに分断されていくプリンを眺めながら、胸の痛みと向き合う。
ダメだなぁ。
まだこんなにも、彼に囚われてるなんて。
こんなにも、好きだなんて。
一体いつまで……こんな……
手が震え、スプーンですくったプリンがするりと、零れ落ちた。