イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!


はぁはぁ……

はぁ、はぁ……


狭くて暗い玄関先。
外と変わらないその寒さに震えながら、虚ろな視線を上げる。


籠ったように響く男の息遣いが、こだまして。
見慣れた景色なのに、下から見上げるとひどくよそよそしく映った。


首筋に吸い付いた男の唇が、ぴちゃりと音を立てた。
ぺちゃ、ぺちゃ、気味悪い音を立てながら、それは喉へ、首へ、頬へと移動する。

硬い床を背中に感じながら、
襲ってくる恐怖とおぞましさと戦い、後悔する。

どうして早く引っ越しておかなかったんだろう。
どうしてオートロックつきのアパートを選ばなかったんだろう。

今更言っても遅いけど。

視界に男のべたついた舌が見えて、たまらず目を背けた。

動かした先にあったのは、一枚の写真。
ここからじゃ見えないけど、そこに写っているのは、大好きなあの人のはず。


「さか、た……くん」

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