イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
1. 2人の始まり
「ほんとだってば!」
叫んでから、予想外に反響した自分の声にギョッとして。
わたし――中村美弥子は携帯を握り締めたまま身体を縮めた。
非常階段の手すりから身を乗り出すようにして、上下を確認。
いくら健康のためとはいえ、さすがに25階から階段を使って帰る社員はいないと思うけど……うん、大丈夫。
人影は見当たらないし、音も聞こえない。
ホッとして、再び携帯を耳に近づける。
「ほんとだってば。『あたし今日、危険日なの』って、確かに言ったんだから!」
あぁもう! こんなことなら、女子トイレなんて行くんじゃなかった。
メイク直しは、デパートかどこかでやればよかった。
今夜はこんなことしてる場合じゃないのに……なにやってんだろ、わたし。
ブツブツぼやきながら、ついさっきまで盗み聞いていた赤裸々な会話を頭の中で巻き戻していく。
舞台は、終業後の女子トイレ。
個室にいるわたしに気づかず、入ってきた3人組はさっそくメイクを直し始めて……。
――菜々美、今日気合入ってんねえ。彼が来るから?
――ふふっまあねー。
――ヴィラの“イケメン社員特集”に載ってから、ライバル激増したもんね。頑張ってよ菜々美!
声から察するに、営業部のアシスタントだと思う。先輩社員に会話を聞かれるのが嫌みたいで、時々うちの、総務フロアのトイレを使ってる子たち。