イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
話の内容からすぐ、“彼”というのがわたしの同期、営業部の坂田慎太郎だと気づいちゃったのよね。それで、完全に出て行くタイミングを失って……
――営業成績、MVPだって狙えるくらいいっつも上位だし、そのうち年収、大台に乗るよね?
――間違いないって。今だってインセンティブ相当もらってるんじゃない?
――車、外車かな。丸岡主任はボルボでしょ。日下係長はプジョーだし、坂田さんはBMあたりじゃない? 菜々美、ドライブデートに連れてってもらいなよ!
――家は? 家は? もうタワマン住んでたりするかもよ? 菜々美、タワマンマダムぅっ!
キャーやばいっ! とひと際大きく響く黄色い悲鳴。
両耳を押さえながら、苦笑してしまう。
すごい想像力だなー。
確かに相当稼いでるっぽいし、外車もタワマンもリアルにありそうだけど。
トイレに腰かけたまま、ぼんやりあいつの整った顔を思い浮かべていると。
話題は今夜の飲み会へと移っていく。
――秘書課も来るんでしょ。負けちゃダメだよ。
――当たり前でしょ。あたし、絶対今夜キメるつもりだから。
それってたぶん、営業と総務、合同親睦会のことよね。
わたしも誘われたけど、今日は予定が……
そこでようやく、この後に控えるパーティーを思い出したわたしは、こんなことをしてる場合じゃない、と個室内で一人焦りだした。
わたしだってメイク直したいのに……とポーチを握り締める。
ジリジリしながら腕時計に目を落として。
その時だった、あの発言が飛び出したのは――『あたし今日、危険日なの』。