イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

「そこまで臭くないと思うけど。車内では吸ってねえし」

彼の言葉通り、車内にタバコ臭は全くしない。
タバコ嫌いなクライアント(あるいは彼女?)を乗せることもあるだろうし、気を遣ってるんだろう。

シートベルトをしめつつ、そんなことを考えていると。

「これ、落ちてたぞ」

運転席に乗り込んだ坂田くんが、何かを差し出してきた。ピンク色の小さな革ケース――名刺入れ?

「あ、わたしのだっ! ごめん、ありがとう」

最後に名刺交換してテーブルに置いて……、その後そういえば、カバンに入れた記憶がない。
あぁよかった! これがないと、せっかく知り合ったのに連絡が取れないもんね……と、何気なく中を確認し、ギョッと目をむいた。

嘘でしょ? この名前って……これも、これも……
ナニコレ……

「ちょ、ちょっと! こここ、これ、みんな坂田くんがもらった女子の名刺じゃないっ! わたしがもらったやつは? どこにやったの!?」

悲壮な声をあげると、隣から感じる冷ややかな視線。
「ここにあるけど」

坂田くんは胸ポケットから取り出した名刺を、マジシャンみたいに片手で扇状に広げて見せた。

「早く返してっ!」
「んーどうしようかなぁ」

飛びつこうとすると、すいすいっと遠ざけられて。
まるで猫じゃらしで遊ぶ猫状態。

「ぐぬぬ……」
苛立ちはマックス。
ほんとに嫌いだ、この男!

「ちょっと、遊んでないで返してってば!」
「じゃあ、こいつが誰だか教えてくれたら考えてやるよ」

「……こいつ?」

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