桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞

どっからここに来た?

 この地の名は『岩時(いわとき)』。

 大地の父である白龍神・久遠が守る地である。

 とても広くて綺麗な神社だ。

 フツヌシは人間達にバレないように姿を消して、境内を歩み始めた。

 ほかの4体は光る魂を狩るため、それぞれの場所に散ってしまったらしい。

 ウタカタなどは早速、人間の魂に手を出している頃だろう。

 7年に一度の祭りに浮かれ騒ぐ人間の声と、祭囃子の音が騒がしい。

 太鼓の音が頭に響く。

 人間達は7年に一度の『岩時祭り』を相当、楽しみにしていたようだ。

「ケッ」

 最強神の側近になって間もない久遠と、フツヌシは、まるで面識が無い。

 久遠は多分、自分の事を知らないだろう、とフツヌシは思っている。

 知っていたとしても、『黒奇岩城を建てた神』だとしか思っていないはずだ。

 一方のフツヌシはというと、久遠の存在をとても良く知っていた。

 大地に対する憎悪ほど激しくは無いが、フツヌシは久遠を憎んでいる。

 高天原の八神である『風の神・久遠』と『時の神・爽』は、かつての黒奇岩城を破滅に追い込み、フツヌシの輝かしい未来(?)に傷をつけた男達だったからである。

 自分の息子がひどい目に遭わされていた事を知った久遠が天滅(テス)という術式で、当時フツヌシの配下だった者達を悉く血祭りにあげたのは、記憶に新しい。

 当時のフツヌシはとても忙しく、白龍側の視察団が黒奇岩城に入り込んだ時、たまたまその場に居合わせなかったのが幸いした。

 伽蛇は一時捕まったが、フツヌシの悪事は、今日まで誰にもバレずに済んでいる。

 大地に久遠。フツヌシは、何かの因縁に操られているようにしか思えない。

「おっかねぇ力が、バシバシ、伝わってきやがるな……」

 ひとつは岩時神社の最奥に位置する、本殿の方角からだ。

 頭や体をガンガン殴られているような痛みが、フツヌシの全身に駆け巡る。

 これは白龍・久遠が時間をかけて作った、強大な『天璇(メラク)』の力。

 そして白龍側の霊獣達が警戒心を強めながら、注意深く辺りを見回している。

「何だ、あの獅子は……」

 輝く黄金色の瞳。

 霊獣王(カン・アル)が、何故このような人間世界の、小さな町に存在するのだ?

 最強神の部屋まで一瞬で飛べる、希少な鳳凰の気配も感じ取れる。

「おいおい。何なんだよ、この場所は……」

 フツヌシは、本殿以外に潜むもう一つの、もっと本質的で不気味な力が気になっていた。

 この力は、どこから来る?!

 フツヌシがキョロキョロ辺りを見回していたその時。

「さっきから何、を驚いて、おるん」
「うおっ!」

 いきなり背後から声を掛けられ、フツヌシはビクッとして飛び上がった。

 振り向くとすぐ近くに、顔を赤らめた石凝姥命(いしこりどめ)が立っている。

 酒臭い。

「ドメさんこそ、なんでここにいる?!」

「祭りに呼ばれたのんじゃ、ヒック! ワシはグレーゾーンな神じゃからのん」

「グレーゾーンって何だ」

「白龍側でも、黒龍側でも無い、という意味じゃあ」

 どこにも属さず、好き勝手してただけだろうが。

 しゃっくりを繰り返す石凝姥命を見て、フツヌシは呆れた。

「かなり酔ってるな……」

「エセナはどうしたん? 巨乳美女をワシにくれると約束したじゃろがん……明蓮夢(アーレンヌ)の鉱山は? 独占権を、ワッシィに、くれるん、じゃろがん」

 そんな約束、してねえぞ? 

 とか、のらりくらり誤魔化そうとしたが、口からはこんな言葉が出てしまう。

「ドメさん。大変、申し訳ない。もう少しだけ待ってくれるか」

 フツヌシは石凝姥命に、ぺしっと頭を叩かれた。

「待てるか! とびっきりデカくなる武器を、お前に用意してやったじゃろがん!」

 痛え! 叩く事無いだろうが!

 どっか消えろ! このジジィ!

「面目ないっ!」

「……何じゃ、お前のその態度」

「心から謝罪する!」

「おえええ。いつもと違って、アホみてぇ、に素直で普通に気持ちわりいなあ」

 アホみてぇとは何だ。

 アンタの姿には負ける。

「それよりドメさん。あんた、どっからここに来たんだ? あんたん家、天の原の端っこだろ? 遠すぎてなかなか来れないだろうが」

「近すぎるくらいじゃ! 黒奇岩城の中庭に生えた木から、ここに、来たからのん」

 黒奇岩城?

 黒奇岩城なら、天の原に比較的近い。

「……この、桜か!」

 ただの巨木では無い。

 境内の中央に位置する桜の大木を見て、フツヌシは悲鳴を上げそうになった。

 岩時神社の御神木のように見えるのだが、形容し難い異様な存在感を放っている。

 黒奇岩城と、久遠が拠点に構える龍宮城と、この場所を繋ぐ『空間』……

 ――――大地を閉じ込めていたはずの『隔離室』に通じている場所なのか?!

 一体、何故?!

「ワシはこの木を、設計した覚えなど、無いぞ?」

 石凝姥命はもう一度、フツヌシの頭をぺしぃっ! と殴った。

 もう、いちいち痛がっている場合では無い。

「ドメさんは黒奇岩城から、ご神木(ワープゾーン)を使ってここへ?」

 設計者である石凝姥命は基本、黒奇岩城にいつでも出入り自由だ。

 現在の黒奇岩城は学校では無く、ほぼ廃墟同然ではあるが。

「そうじゃ。なーにが『黒奇岩城の設計図は欠陥品』だ! 盗みおった上、散々因縁をつけてきたが。元はお前が、闇の神なんぞに隔離室(この木)を作らせたから、白龍側に付け込まれるバグが起こったんじゃろが!」

 度肝を抜かれたな。

 まさか、ここから自分の家同然の黒奇岩城に、すぐ帰れるだなんて。

「……作らせたわけでは無い。伽蛇(カシャ)が勝手に作ったんだ」

「それを止めなかったお前に、責任があるじゃろうが」

 えーい、うるさい。

 石凝姥命にかけた、岩破邪と忘却術の力が切れたか。

 都合の悪い事実まで、もう思い出してやがる。

「ところでお前、クスコ殺害はどうなった」

 石凝姥命はズケズケと、痛いところを突いて来る。

 ……徐々に酒まで、切れてきやがったか。

「シッ!」

 喋るな、石凝姥命!

 白龍側の力が強すぎて、フツヌシは岩破邪(ガハジャ)を唱えられない。

「殺害は失敗したんだ」

 わあっ、打ち明けるんじゃねぇ!

 誰に聞かれるか、わかったものでは無い。

 深名様の耳に入ったら、どーすんだよ!

 勝手に喋るな、俺!

 頼むよ俺!

「やはりお前に、リーダーは無理だったな」

 うるっせえ!

 あいつらが手に負えないのは、絶対に俺だけじゃねぇ!

「そのようだ」

 石凝姥命を眠らせる薬か、致命傷を与える武器は無いものか、とフツヌシがゴソゴソと懐を探っているうちに、一枚の紙が見つかった。

「何だこれ?」

 石凝姥命が紙を覗き込む。

天津麻羅(あまつまら)の印が、一番下に押してあるぞ」

「天津麻羅の?」

 確かに印が押してある。

 いけ好かない男だ。

 あんな奴が俺様に手紙?

 紙にはこう書かれている。


***************

 ゴツゴツルツルさんへ

 魂の花を採集し、麻羅先生の病院まで、持って来て下さい。

 黒の花と、白の花を、1本ずつです。

 見たらすぐに、わかると思います。

 魂の花が二つ揃えば、最強神のお二方が元に戻れるみたいです。

 彼らが元の姿に戻らねば、世界が全滅するでしょう。

 最強神のお役に立てば、ゴツゴツルツルさんが生き残れる可能性は大きいですよ!

 二つの魂の花は、人間の世界にある螺旋城(ゼルシェイ)の地下深くに、埋められているみたいです(って麻羅先生が、言ってました)。

 時の神スズネに聞けば、螺旋城への行き方がわかるはずです。





 P・S

 ゴツゴツルツルさん、光る魂を絶対に食べたらダメですよ!



 なる早でおなしゃす!


***************


 きったねぇ字だ。

 しかも色々と、ツッコミどころ満載の手紙である。

 『麻羅先生の病院』と書いてあるところを見ると、天津麻羅本人が書いた手紙では無いのが見て取れる。

 きっと弟子に書かせたんだな。

 それにしても「なる早でおなしゃす!」とか。失礼な書き方をする弟子だ!

 真剣味が無い文体なのに、内容がエグ過ぎる。

 最強神の『お二方』とは、どういう意味だ?

 深名様の他にも、最強神がおわすという事か?

 スズネに螺旋城の場所を聞けと書いてあるが、スズネは『魂の花』とかいう存在を知っているのだろうか。

 そもそもこれは、俺様あての手紙では無い可能性だってある。

「ゴツゴツルツルさん? って一体、誰の事だ」

「どう考えても、お前の事じゃろ」

「俺のはずねぇだろうが!」

 つまり何か?

 俺の頭が、ゴツゴツ、ツルツル、してるって事か?

 ってことはアレか?

 俺様の見た目をツルツルハゲって、ディスってるわけなのか?

「それより、この内容じゃ! お前、天津麻羅の病院にいたのか」

「そこんとこ、良く覚えてねぇんだ」

「昔、天津麻羅の病院で治療を受けたことのある奴から、聞いたことがある。病院であった出来事は全て忘れてしまうのだと。それでも、このメモをお前に渡したって事はかなり切実で、内容は真実なのかも知れんな」



 ……。




『彼らが元の姿に戻らねば、世界が全滅するでしょう』



 これってかなり、ヤバい事態なんじゃねぇのか?


 
< 154 / 160 >

この作品をシェア

pagetop