桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
岩時神社・攻略
「では。もう一度、人間世界をその手に握ってください」
爽は玉座のすぐ横に立ち、浅く腰かけている深名に声をかけた。
面倒くさそうにしぶしぶ手を伸ばし、深名は床を指さす仕草をした。
すると、彼が投げ捨てた四角い何かが散乱する中から一枚の、灰色に輝く四角い石だけが浮かび上がった。
石の姿に変化した、人間世界である。
するするとその四角い石は、深名の手の中に納まった。
久遠はホッとし、胸を撫でおろした。
見捨てられようとしていた人間世界が、これで存亡の危機を免れた。
深名は石を手に取り、爽に問いかけた。
「どうすればいい?」
手のひら2枚分くらいの石に集中する深名を、久遠は静かに見守った。
「操作用の青い石に指を乗せながら『天枢』を唱えて下さい」
深名は頷き、『天枢』を心の中で唱えた。
すると壁一面に、四角い石と同じ映像が映し出された。
声に出して詠唱せずとも深名は、力を発することが出来る。
息をするようにこの動作ができるのは神々の中でも、最強神である深名だけである。
部屋の中に人間世界の夜の闇と星空が一斉に広がり、ぐんぐん景色が下降していく。
やがて白龍・久遠が守る岩時神社の内部が、大きく映し出された。
闇の中に明々と光を灯し、大きな祭りが開かれている。
にぎやかな人々のざわめきなども、すぐ間近な音のように聞こえてくる。
まるでその地に降り立ったような感覚になる。
神社の中央にある広場には大きな舞台が設置されており、高校生の少年少女たちが何かの準備に忙しく立ち働いていた。
深名はその、舞台装置付近を指さした。
「あの人間達は、何をしているのだ」
「岩時神楽の準備をしているようですね」
爽の返事に、深名は首を傾げた。
「イワトキカグラ…………? その名を知っている気がする」
「若返る前に、実際に赴かれたのでは無いですか?」
「だとしたらクスコがいた時だ。もう思い出せぬが」
深名は、いきなりクスコの存在が頭をよぎった事を、不思議に思った。
「────ずっと忘れていたのに」
「何かおっしゃいましたか?」
爽に聞かれ、深名は我に返った。
「いや。……あの霊獣どもは何故、人間の姿をしている? ずいぶん何かを警戒しているようだが」
深名は神社の中を歩いている、複数の霊獣達を指さした。
狼の霊獣も。
鴉の霊獣も。
鹿の霊獣も。
白蛇の霊獣も。
全て人間の姿に化け、神社の中を用心深い様子で歩いている。
爽は答えた。
「岩時の地では今回のように大掛かりな祭りの間だけは、霊獣達が人間になりすまして神社の中を警護し、人々を守るしきたりがあります」
「何故、人間を守る?」
これを聞いた爽はぎょっとした表情に変わり、ちらりと久遠に目を向けた。
久遠は爽を、ぎろっと睨みつけている。
それ見たことか、という表情だ。
慌てて爽は、ぶんぶんと首を横に振った。
『俺のせいじゃない!』
爽が天涯の術(若返りの効果がある)をかけたせいで、深名の知識レベルまでも少年に戻ってしまっているのでは無いか、と久遠に勘違いされているようである。
爽はこの誤解を後から解かなくてはと思いつつ、今は深名の問いに答えた。
「奪われたくないからでしょう。人々の体や魂…………特に『光る魂』を、外部からの侵入者に喰われることが無いように、です」
「…………ふぅん」
聞いておきながら、さほど興味は無いといった表情で、深名は相槌を打った。
神社の入口にあたる大きな白い鳥居の真下では、二体の霊獣が注意深く外部からの侵入者を見張っている。
獅子カナメと、狛犬シュンだ。
普段は大人しく石像姿で神社の入口に鎮座している彼らも今は、人の姿に化けて神社の警護にあたっている。
この大きな祭りが執り行われている3日間だけ、彼らをはじめとする霊獣達が人間の姿に化け、力を合わせて岩時神社内を巡回しながら守っていた。
なのに今回、侵入者を許した。
霊獣を取りまとめる役を担う獅子カナメは、威厳を保ちながらも焦りの表情を浮かべている。
深名は背筋を伸ばして立っている、一人の老女に注目した。
人間に変身をしていても彼女の正体は、深名にはお見通しである。
「あれは鳳凰…………? ああ、梅と呼ばれるあの霊獣か。お前に仕えている者だな、久遠」
本来は高天原と、天の原を拠点にしているはずの希少な鳳凰が、人間世界に存在するのは稀有な事である。
「はい。その通りです」
久遠は、深名が梅の名を覚えていたことに驚いた。
霊獣など、いつもは気にもかけないはずなのに。
「お前の息子と婚約を交わした少女が、おかしな事をしないよう見張るためだったな。僕はそれを許可した」
正確には、久遠の息子である大地の婚約者であるさくらを見守るためである。
「ええ。あの時はお許しをいただき、ありがとうございました」
「異例な事態だったからな」
カナメを筆頭とする霊獣と力を合わせ、今回のような緊急事態があったらすぐに、久遠に伝える事。
それが梅の役目であり、彼女は既にその任務を果たしている。
だからこの部屋にいる中で久遠だけは、岩時神社の中で何があったか理解していた。
梅は本殿の中の様子を、しきりに伺っている。
力が弱いため、久遠がかけた結界を破れず、中へ入れないのだろう。
しかも結界の術『天璇』の力が大きいため、術をかけた本人である久遠にしか、本殿の中の様子がわからない。
「久遠、天璇を解除しろ。この状態では僕も中がはっきり見えないし、あの鳳凰が本殿の中に入れなくて困っている」
「解除してしまってよろしいのですか? 深名様」
「…………良いに決まっているだろう」
久遠がどうして聞いたのか、深名には理解できないようだった。
ますます奇妙に久遠は感じた。
もしかすると深名は、人間世界に興味を失い過ぎたせいで、岩時神社に侵入した5体の神々が、深名本人がクスコを殺すために放った刺客である可能性が高いという事を、予測できていないのでは無いだろうか。
だとすると、これはチャンスだ。
本殿に梅を入らせて、何とか『光る魂』を奪われるこの状況を、変える事が出来るかも知れない。
梅のすぐ側には、足に包帯を巻いた鴉の霊獣ハトムギが立っていた。
彼は注意深く、本殿に近づく者がいないかを見張っている。
「解除。『天璇』」
久遠がこう言った途端、本殿の内側が全員に見えた。
一人の少女の体が、空中に浮かんでいる。
「侵入者は、黒龍側の神々5体です。そのうちの一体である『泡の神』が既に本殿の中で、この少女の『光る魂』を食べている模様です」
爽の言葉に、深名は玉座から身を乗り出し、大きく目を見開いた。
「何…………? 泡の神だと?」
「本殿の中です。ほら、ここ」
爽が指さした方角を見ると、虹色の髪と瞳を持つ少女が、ふらふらと回りながら、何かわめき散らしている。
どうやら酔っているようだ。
深名は突然、何か心当たりがある顔つきに変わった。
『当たりか』
久遠は深名の表情から、確信に近いものを感じた。
侵入者達は恐らく、クスコを殺せと深名が命じて放った、刺客だったのだろう。
今回の岩時神社の侵入者騒動については、意図的では無いにせよ深名の行動が全ての元凶のようである。
さあ、最強神はどう出るか。
「…………他の4体の神々はどこにいる?」
「気配をほとんど消しながら、神社の中に潜んでいるようです」
苦いものでも食したような顔をしながら、深名はため息をついた。
爽は玉座のすぐ横に立ち、浅く腰かけている深名に声をかけた。
面倒くさそうにしぶしぶ手を伸ばし、深名は床を指さす仕草をした。
すると、彼が投げ捨てた四角い何かが散乱する中から一枚の、灰色に輝く四角い石だけが浮かび上がった。
石の姿に変化した、人間世界である。
するするとその四角い石は、深名の手の中に納まった。
久遠はホッとし、胸を撫でおろした。
見捨てられようとしていた人間世界が、これで存亡の危機を免れた。
深名は石を手に取り、爽に問いかけた。
「どうすればいい?」
手のひら2枚分くらいの石に集中する深名を、久遠は静かに見守った。
「操作用の青い石に指を乗せながら『天枢』を唱えて下さい」
深名は頷き、『天枢』を心の中で唱えた。
すると壁一面に、四角い石と同じ映像が映し出された。
声に出して詠唱せずとも深名は、力を発することが出来る。
息をするようにこの動作ができるのは神々の中でも、最強神である深名だけである。
部屋の中に人間世界の夜の闇と星空が一斉に広がり、ぐんぐん景色が下降していく。
やがて白龍・久遠が守る岩時神社の内部が、大きく映し出された。
闇の中に明々と光を灯し、大きな祭りが開かれている。
にぎやかな人々のざわめきなども、すぐ間近な音のように聞こえてくる。
まるでその地に降り立ったような感覚になる。
神社の中央にある広場には大きな舞台が設置されており、高校生の少年少女たちが何かの準備に忙しく立ち働いていた。
深名はその、舞台装置付近を指さした。
「あの人間達は、何をしているのだ」
「岩時神楽の準備をしているようですね」
爽の返事に、深名は首を傾げた。
「イワトキカグラ…………? その名を知っている気がする」
「若返る前に、実際に赴かれたのでは無いですか?」
「だとしたらクスコがいた時だ。もう思い出せぬが」
深名は、いきなりクスコの存在が頭をよぎった事を、不思議に思った。
「────ずっと忘れていたのに」
「何かおっしゃいましたか?」
爽に聞かれ、深名は我に返った。
「いや。……あの霊獣どもは何故、人間の姿をしている? ずいぶん何かを警戒しているようだが」
深名は神社の中を歩いている、複数の霊獣達を指さした。
狼の霊獣も。
鴉の霊獣も。
鹿の霊獣も。
白蛇の霊獣も。
全て人間の姿に化け、神社の中を用心深い様子で歩いている。
爽は答えた。
「岩時の地では今回のように大掛かりな祭りの間だけは、霊獣達が人間になりすまして神社の中を警護し、人々を守るしきたりがあります」
「何故、人間を守る?」
これを聞いた爽はぎょっとした表情に変わり、ちらりと久遠に目を向けた。
久遠は爽を、ぎろっと睨みつけている。
それ見たことか、という表情だ。
慌てて爽は、ぶんぶんと首を横に振った。
『俺のせいじゃない!』
爽が天涯の術(若返りの効果がある)をかけたせいで、深名の知識レベルまでも少年に戻ってしまっているのでは無いか、と久遠に勘違いされているようである。
爽はこの誤解を後から解かなくてはと思いつつ、今は深名の問いに答えた。
「奪われたくないからでしょう。人々の体や魂…………特に『光る魂』を、外部からの侵入者に喰われることが無いように、です」
「…………ふぅん」
聞いておきながら、さほど興味は無いといった表情で、深名は相槌を打った。
神社の入口にあたる大きな白い鳥居の真下では、二体の霊獣が注意深く外部からの侵入者を見張っている。
獅子カナメと、狛犬シュンだ。
普段は大人しく石像姿で神社の入口に鎮座している彼らも今は、人の姿に化けて神社の警護にあたっている。
この大きな祭りが執り行われている3日間だけ、彼らをはじめとする霊獣達が人間の姿に化け、力を合わせて岩時神社内を巡回しながら守っていた。
なのに今回、侵入者を許した。
霊獣を取りまとめる役を担う獅子カナメは、威厳を保ちながらも焦りの表情を浮かべている。
深名は背筋を伸ばして立っている、一人の老女に注目した。
人間に変身をしていても彼女の正体は、深名にはお見通しである。
「あれは鳳凰…………? ああ、梅と呼ばれるあの霊獣か。お前に仕えている者だな、久遠」
本来は高天原と、天の原を拠点にしているはずの希少な鳳凰が、人間世界に存在するのは稀有な事である。
「はい。その通りです」
久遠は、深名が梅の名を覚えていたことに驚いた。
霊獣など、いつもは気にもかけないはずなのに。
「お前の息子と婚約を交わした少女が、おかしな事をしないよう見張るためだったな。僕はそれを許可した」
正確には、久遠の息子である大地の婚約者であるさくらを見守るためである。
「ええ。あの時はお許しをいただき、ありがとうございました」
「異例な事態だったからな」
カナメを筆頭とする霊獣と力を合わせ、今回のような緊急事態があったらすぐに、久遠に伝える事。
それが梅の役目であり、彼女は既にその任務を果たしている。
だからこの部屋にいる中で久遠だけは、岩時神社の中で何があったか理解していた。
梅は本殿の中の様子を、しきりに伺っている。
力が弱いため、久遠がかけた結界を破れず、中へ入れないのだろう。
しかも結界の術『天璇』の力が大きいため、術をかけた本人である久遠にしか、本殿の中の様子がわからない。
「久遠、天璇を解除しろ。この状態では僕も中がはっきり見えないし、あの鳳凰が本殿の中に入れなくて困っている」
「解除してしまってよろしいのですか? 深名様」
「…………良いに決まっているだろう」
久遠がどうして聞いたのか、深名には理解できないようだった。
ますます奇妙に久遠は感じた。
もしかすると深名は、人間世界に興味を失い過ぎたせいで、岩時神社に侵入した5体の神々が、深名本人がクスコを殺すために放った刺客である可能性が高いという事を、予測できていないのでは無いだろうか。
だとすると、これはチャンスだ。
本殿に梅を入らせて、何とか『光る魂』を奪われるこの状況を、変える事が出来るかも知れない。
梅のすぐ側には、足に包帯を巻いた鴉の霊獣ハトムギが立っていた。
彼は注意深く、本殿に近づく者がいないかを見張っている。
「解除。『天璇』」
久遠がこう言った途端、本殿の内側が全員に見えた。
一人の少女の体が、空中に浮かんでいる。
「侵入者は、黒龍側の神々5体です。そのうちの一体である『泡の神』が既に本殿の中で、この少女の『光る魂』を食べている模様です」
爽の言葉に、深名は玉座から身を乗り出し、大きく目を見開いた。
「何…………? 泡の神だと?」
「本殿の中です。ほら、ここ」
爽が指さした方角を見ると、虹色の髪と瞳を持つ少女が、ふらふらと回りながら、何かわめき散らしている。
どうやら酔っているようだ。
深名は突然、何か心当たりがある顔つきに変わった。
『当たりか』
久遠は深名の表情から、確信に近いものを感じた。
侵入者達は恐らく、クスコを殺せと深名が命じて放った、刺客だったのだろう。
今回の岩時神社の侵入者騒動については、意図的では無いにせよ深名の行動が全ての元凶のようである。
さあ、最強神はどう出るか。
「…………他の4体の神々はどこにいる?」
「気配をほとんど消しながら、神社の中に潜んでいるようです」
苦いものでも食したような顔をしながら、深名はため息をついた。