桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
父の守り
大地と梅は桃色の翼をはためかせ、ウタカタに向かって一直線に飛翔した。
「その娘を離せ!」
あたり一面に広がる桃の木は大きく揺れ、花びらを一斉に舞いあげた。
ゴォーーーーーー!!!
梅は大地の横を飛びながら、黄金の炎を喉から吐き出し、ウタカタの右腕を燃やした。
「うーっ!!」
ウタカタは痛みに顔をひきつらせ、急激に力を弱めた。
その瞬間を、大地は見逃さなかった。
ビュン!!!
振り下ろした大地のとがった爪は、ウタカタの右腕を引きちぎった。
グアッ!!!
右腕は血を吹き出し、回りながら宙を舞った。
『攻撃は出来ても、これが限界だ』
「痛い!!」
ウタカタは叫んだ。
握られていた蚕を、逆の手で大地はつかみ取った。
『よし!』
ウタカタの腕だけが、奈落の底へと落ちていく。
『けどこれじゃ、こいつはまた元に戻っちまうんじゃねぇか?』
ぽろぽろ涙をこぼし、ウタカタは大地をキッと睨みつけた。
「何するんだー! あ!! お前はぁ……破魔矢を抜いたドラゴン!!」
大地はピンク色の髪を風に揺らす、白装束を着た人間の男に変身した。
「俺の友達に何しやがる」
緑色の瞳を怒りで燃えるように揺らしながら、大地は声を発した。
『ただ、攻撃を繰り返しても』
ウタカタは、奈落の底に向かって叫んだ。
「戻ってこいー! アタシの腕ー!」
声に答えるように、腕は奈落の底から戻ってきた。
『やっぱり全然意味が無い』
何事もなかったかのように腕は再び、ウタカタの肩におさまった。
『一体、どうすればいい?』
自分を睨みつけている大地を見て、ウタカタは不気味な笑い声をあげた。
「…………まだ、方法あるもんねぇ~…………おえおえぇ~」
くるくるー。
くるくるー。
「…………!」
ウタカタは痛さと気持ち悪さのあまり、体を小さくしながら涙をこぼしている。
ずきずきと痛む頭を抱えながら何度も宙返りを繰り返し、ウタカタは徐々に弱体化していく。
「でもでも『光る魂』をミナ様に捧げないとぉ~…………」
「あり?」
深名の部屋で灰色の石を手に持ち、爽は奇妙な声をあげ、ふと首を傾げた。
「どうしたのだ」
最強神に問われ、手の中にある四角い石を念入りに調べている。
「光と共に大量の開陽が体内に取り込まれているので、試験的に時間を巻き戻したのですが…………泡の神の体が、元の状態に戻りません」
爽は続けた。
「あいつが元々、世界の理を無視したバグだからなのか? それとも…………」
爽は四角い石を縦にして、ぶんぶんと振り出した。
『カラカラ』
何やら小さな音がする。
それを見た久遠は思わず、声を上げた。
「あ! そんな事をしては…………」
「何だ、この音は」
爽は久遠の言葉に構わず、四角い石を今度は横にして振った。
『カラカラ』
「…………なんだ? この音。あと裏面に、薄いヒビが入っていますね」
「本当ですか?!」
「ええ。ほら、ここ」
滅多に表情を変えない久遠が、爽の言葉に反応を示して、四角い石を覗き込んだ。
黒光りする裏面に、小さくて白い線状のヒビが一本入っている。
「…………うわ! 壊れてますね。これ、治るんですか?」
「わかりません。やってみますけど…………。あと今回、時間は一応戻ったようですが、泡の神の体に取り込んだ『光る魂』のデータが元に戻せないとなると…………」
「どうなるのだ」
深名の問いに、爽が答えた。
「核である開陽の力が強い場合、泡の神が『光る魂』の影響を受ける可能性があります」
「泡の神はどうなるのだ?」
「さぁ」
「……さぁ。とは何事だ」
三人は、画面を見つめた。
爽はこう言った。
「『核入りの魂』を喰った場合の対処法が確立されておりません。古代の文献や石文字が残されているかどうかさえ、不明です。現在『光る魂』を食さない神が多いのは、人間愛護法を守りたいからというより、こうして食べ方を間違った場合に起きる副作用を恐れているからです」
映像が心なしか、揺れているように見える。
やはり壊れかけているせいなのだろうか。
「あれ。大地?」
久遠は思わず声を上げた。
あいつらは一体、何をやっているのだ。
自分の息子が梅と一緒に、酔っぱらいの泡の神ウタカタと戦っている。
「……世界を治さないと、泡の神を元に戻せないってこと?」
「はい。おそらく」
「…………さっき深名様が床に投げつけたりしたから」
咎めるような顔つきで、久遠は深名を見つめた。
「だってそれ、飽きたんだもの」
口をとがらせながら、当の深名は平然としている。
壊れた人間世界を修復する方法がわからず、説明書が見当たらない。
なのに、生みの親である持ち主は危機感も無く、平然と言い放った。
「ねぇ、そろそろおやつにしない? お腹空いちゃったよ。お土産とか持ってこなかったの? 爽。…………別にもう『光る魂』とか泡の神とか、どうでもいいし。こんな面倒な事してないで、さっさとあいつを殺しちゃえば済む事でしょ? 掟を完全に破ってるんだからさ」
「そんなわけにはいきません。泡の神は開陽が入ったままの『光る魂』を食べてしまっているのです。ウタカタを殺してしまえば、食べられた人間も死んでしまいます」
「だからそれがどうしていけないの?」
「…………」
「…………」
久遠と爽は、再び顔を見合わせた。
やはり今の深名はおかしい。
最大のルールを失念している。
「人間の一人くらい、殺してしまえばいいじゃないか。それのどこが悪い?」
爽が何か答えようとした瞬間、久遠がそれを遮って話し出した。
「たとえ最強神である深名様であっても、人間を勝手に殺すことと『光る魂』を食べることは今現在、許されない行為とされております。人間世界を正常に終わらせるために、彼らに影響を与えることは出来ても、我々が勝手に殺したり裁きを与える事は『人間愛護法』で禁じられています」
「…………ふ~ん、そうなんだ」
最強神は久遠の話を鵜呑みにし、しぶしぶ納得したようである。
爽はまた、念を使って久遠に言った。
『いいのですか? そんな嘘をついて』
『タブーはタブーです。深名様がルールを忘れているなら、時間が稼げます。最強神だけは何をしても許されるなどと本当の事を言えば、このお方は好き勝手し放題になりますから』
『…………なるほど。しかし、もし嘘がバレたらあなたが今度は、深名様に殺されてしまいますよ? 久遠』
久遠は頷いた。
もとより承知である。
自分の命をかけてでも、人間の世界を守る。
それは久遠が人間である妻の弥生と、息子の大地に出会った瞬間から、決めていた覚悟だった。
「あ!」
一筋の光を見出し、久遠は突然声を上げた。
「何だ、久遠」
「梅に命じてみます。彼女が口から放つ炎は、蘇りの効果があります。泡の神を元に戻せるかもしれません」
「…………」
爽は久遠の意図に気づいた。
そんな事をしたって、泡の神は元に戻らない。
だが、もしかすると…………。
「ふぁぁぁあ…………」
深名はあくびをし、面倒臭そうな様子で久遠の言葉に頷いた。
「もうさ、好きなようにやってよ。おやつの時間だし、少し眠くなってきた。あとはお前らに任せる」
「…………かしこまりました」
頭を下げながら、久遠は微笑んだ。
これでまた、少し時間が稼げる。
『頑張れ。大地、梅』
梅は久遠の声を感じ、小さく頷いた。
「はい、久遠様」
大地も、久遠の念を微かに感じた。
「父さん?」
返事はない。
だが、伝わった。
今、父親が自分を見守ってくれている。
「その娘を離せ!」
あたり一面に広がる桃の木は大きく揺れ、花びらを一斉に舞いあげた。
ゴォーーーーーー!!!
梅は大地の横を飛びながら、黄金の炎を喉から吐き出し、ウタカタの右腕を燃やした。
「うーっ!!」
ウタカタは痛みに顔をひきつらせ、急激に力を弱めた。
その瞬間を、大地は見逃さなかった。
ビュン!!!
振り下ろした大地のとがった爪は、ウタカタの右腕を引きちぎった。
グアッ!!!
右腕は血を吹き出し、回りながら宙を舞った。
『攻撃は出来ても、これが限界だ』
「痛い!!」
ウタカタは叫んだ。
握られていた蚕を、逆の手で大地はつかみ取った。
『よし!』
ウタカタの腕だけが、奈落の底へと落ちていく。
『けどこれじゃ、こいつはまた元に戻っちまうんじゃねぇか?』
ぽろぽろ涙をこぼし、ウタカタは大地をキッと睨みつけた。
「何するんだー! あ!! お前はぁ……破魔矢を抜いたドラゴン!!」
大地はピンク色の髪を風に揺らす、白装束を着た人間の男に変身した。
「俺の友達に何しやがる」
緑色の瞳を怒りで燃えるように揺らしながら、大地は声を発した。
『ただ、攻撃を繰り返しても』
ウタカタは、奈落の底に向かって叫んだ。
「戻ってこいー! アタシの腕ー!」
声に答えるように、腕は奈落の底から戻ってきた。
『やっぱり全然意味が無い』
何事もなかったかのように腕は再び、ウタカタの肩におさまった。
『一体、どうすればいい?』
自分を睨みつけている大地を見て、ウタカタは不気味な笑い声をあげた。
「…………まだ、方法あるもんねぇ~…………おえおえぇ~」
くるくるー。
くるくるー。
「…………!」
ウタカタは痛さと気持ち悪さのあまり、体を小さくしながら涙をこぼしている。
ずきずきと痛む頭を抱えながら何度も宙返りを繰り返し、ウタカタは徐々に弱体化していく。
「でもでも『光る魂』をミナ様に捧げないとぉ~…………」
「あり?」
深名の部屋で灰色の石を手に持ち、爽は奇妙な声をあげ、ふと首を傾げた。
「どうしたのだ」
最強神に問われ、手の中にある四角い石を念入りに調べている。
「光と共に大量の開陽が体内に取り込まれているので、試験的に時間を巻き戻したのですが…………泡の神の体が、元の状態に戻りません」
爽は続けた。
「あいつが元々、世界の理を無視したバグだからなのか? それとも…………」
爽は四角い石を縦にして、ぶんぶんと振り出した。
『カラカラ』
何やら小さな音がする。
それを見た久遠は思わず、声を上げた。
「あ! そんな事をしては…………」
「何だ、この音は」
爽は久遠の言葉に構わず、四角い石を今度は横にして振った。
『カラカラ』
「…………なんだ? この音。あと裏面に、薄いヒビが入っていますね」
「本当ですか?!」
「ええ。ほら、ここ」
滅多に表情を変えない久遠が、爽の言葉に反応を示して、四角い石を覗き込んだ。
黒光りする裏面に、小さくて白い線状のヒビが一本入っている。
「…………うわ! 壊れてますね。これ、治るんですか?」
「わかりません。やってみますけど…………。あと今回、時間は一応戻ったようですが、泡の神の体に取り込んだ『光る魂』のデータが元に戻せないとなると…………」
「どうなるのだ」
深名の問いに、爽が答えた。
「核である開陽の力が強い場合、泡の神が『光る魂』の影響を受ける可能性があります」
「泡の神はどうなるのだ?」
「さぁ」
「……さぁ。とは何事だ」
三人は、画面を見つめた。
爽はこう言った。
「『核入りの魂』を喰った場合の対処法が確立されておりません。古代の文献や石文字が残されているかどうかさえ、不明です。現在『光る魂』を食さない神が多いのは、人間愛護法を守りたいからというより、こうして食べ方を間違った場合に起きる副作用を恐れているからです」
映像が心なしか、揺れているように見える。
やはり壊れかけているせいなのだろうか。
「あれ。大地?」
久遠は思わず声を上げた。
あいつらは一体、何をやっているのだ。
自分の息子が梅と一緒に、酔っぱらいの泡の神ウタカタと戦っている。
「……世界を治さないと、泡の神を元に戻せないってこと?」
「はい。おそらく」
「…………さっき深名様が床に投げつけたりしたから」
咎めるような顔つきで、久遠は深名を見つめた。
「だってそれ、飽きたんだもの」
口をとがらせながら、当の深名は平然としている。
壊れた人間世界を修復する方法がわからず、説明書が見当たらない。
なのに、生みの親である持ち主は危機感も無く、平然と言い放った。
「ねぇ、そろそろおやつにしない? お腹空いちゃったよ。お土産とか持ってこなかったの? 爽。…………別にもう『光る魂』とか泡の神とか、どうでもいいし。こんな面倒な事してないで、さっさとあいつを殺しちゃえば済む事でしょ? 掟を完全に破ってるんだからさ」
「そんなわけにはいきません。泡の神は開陽が入ったままの『光る魂』を食べてしまっているのです。ウタカタを殺してしまえば、食べられた人間も死んでしまいます」
「だからそれがどうしていけないの?」
「…………」
「…………」
久遠と爽は、再び顔を見合わせた。
やはり今の深名はおかしい。
最大のルールを失念している。
「人間の一人くらい、殺してしまえばいいじゃないか。それのどこが悪い?」
爽が何か答えようとした瞬間、久遠がそれを遮って話し出した。
「たとえ最強神である深名様であっても、人間を勝手に殺すことと『光る魂』を食べることは今現在、許されない行為とされております。人間世界を正常に終わらせるために、彼らに影響を与えることは出来ても、我々が勝手に殺したり裁きを与える事は『人間愛護法』で禁じられています」
「…………ふ~ん、そうなんだ」
最強神は久遠の話を鵜呑みにし、しぶしぶ納得したようである。
爽はまた、念を使って久遠に言った。
『いいのですか? そんな嘘をついて』
『タブーはタブーです。深名様がルールを忘れているなら、時間が稼げます。最強神だけは何をしても許されるなどと本当の事を言えば、このお方は好き勝手し放題になりますから』
『…………なるほど。しかし、もし嘘がバレたらあなたが今度は、深名様に殺されてしまいますよ? 久遠』
久遠は頷いた。
もとより承知である。
自分の命をかけてでも、人間の世界を守る。
それは久遠が人間である妻の弥生と、息子の大地に出会った瞬間から、決めていた覚悟だった。
「あ!」
一筋の光を見出し、久遠は突然声を上げた。
「何だ、久遠」
「梅に命じてみます。彼女が口から放つ炎は、蘇りの効果があります。泡の神を元に戻せるかもしれません」
「…………」
爽は久遠の意図に気づいた。
そんな事をしたって、泡の神は元に戻らない。
だが、もしかすると…………。
「ふぁぁぁあ…………」
深名はあくびをし、面倒臭そうな様子で久遠の言葉に頷いた。
「もうさ、好きなようにやってよ。おやつの時間だし、少し眠くなってきた。あとはお前らに任せる」
「…………かしこまりました」
頭を下げながら、久遠は微笑んだ。
これでまた、少し時間が稼げる。
『頑張れ。大地、梅』
梅は久遠の声を感じ、小さく頷いた。
「はい、久遠様」
大地も、久遠の念を微かに感じた。
「父さん?」
返事はない。
だが、伝わった。
今、父親が自分を見守ってくれている。