桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
開陽(ミザール)
『梅。聞こえるか』
「はい。久遠様」
高天原にいる久遠が、念を使って再び梅に話しかけた。
『頼みがある。泡の神が右手で持つ絵筆に向けて、炎を吐いて欲しい』
「かしこまりました」
梅は小さくなったウタカタの、右手に握られた絵筆に向けて、黄金の炎を勢いよく吐き出した。
バチバチ!
バチバチ!
バチバチ!
「あーっ!! 何するんだー!!」
炎はバチバチと音を立て、黄金色から赤・橙・黄・緑・青・藍・菫の七色に変化し、ウタカタが持つ絵筆を跡形もなくなるまで燃やし尽くした。
「うわーん! アタシの大切なナナイロちゃんがっ!!」
小さくなりかけていたウタカタは、絶叫しながら泣き始めた。
「ひどいよーっ!! 燃やすなんてひどいよーっ!!」
泣き叫びながらウタカタは、大きな炎に呑み込まれていく。
「熱いよーっ!! 熱いよーっ!!」
全身を焼かれた尽くした後、ウタカタの体は徐々に、元の大きさへと戻っていく。
すると、不思議なことに。
大地の手の中にあった小さな蚕はみるみるうちに、多種多様な色を持つ大きなリボンへと変化していった。
ぐるぐる巻きを解いたリボンは、ゆるやかな螺旋を描いた。
そして真っ直ぐの状態に戻り、はらはらと地面へ落ちて消滅し、中にいた結月をついに解放した。
大地は気を失っている結月を抱き止め、彼女の顔を覗き込んだ。
ちゃんと息をしている。
心なしか、楽そうな表情に見える。
最悪の事態は、これで回避できたのかも知れない。
「良かった、ちゃんと生きてるな」
まだ完全に安心はできないが、大地は胸を撫でおろした。
オーロラのように透明感のある白と黒の輝きが、そんな結月を守るように包み込んでいる。
パチパチッ!
その白と黒の輝きは音を立てながら、徐々に形を変えて大きくなっていく。
やがてそれらは柔らかそうな白い肌の、12歳くらいの少年と少女の姿へ変化した。
カールされた金色の髪を揺らした少年は、白く輝く羽衣をトーガのように体に巻きつけている。
銀色の直毛をポニーテールにした少女は、黒と金に輝く羽衣を同じようにぐるぐると、体に巻きつけている。
少し成長した、開陽のウタとカタの姿だ。
「あっ! お前らはトンネルの所にいた……」
大地は思わず叫んだ。
「なんだコイツらー!! うっっ!! なんか…………キモチ悪いぃぃー!!」
ウタカタは恐怖の表情を浮かべ、ドテッと尻もちをつきながら、じりじりと後ずさった。
大地は不思議に思った。
どうしてウタカタは、開陽のウタとカタをこんなにを気味悪がったり、怖がったりしているんだろうか。
ウタとカタを絶対に受けつけたくないといった、嫌悪と拒絶の表情を浮かべている。
2人とも容姿は大変可愛らしいし、別に気持ち悪くも何ともないように見えるのだが。
「こらっ! 結月をいじめちゃダメだろ?」
ウタはお兄ちゃんらしく、諭すようにウタカタへと近づきながら声をかけた。
「ひぃっ!!」
ウタカタはビクッとし、委縮した様子を見せている。
「こらっ! 結月を守ってあげなきゃダメでしょ?」
カタはお姉ちゃんらしく、許さないよという雰囲気で腕組みをしながらウタカタを睨みつけている。
ウタカタは、ぎゃぁーっと言いながら大音響で泣き叫び出した。
「うえぇぇぇぇん! 怖いよう! 嫌だよう! 近くに来ないで! 来ないで来ないで! 来ないでぇぇぇっ!」
開陽のウタとカタはじりじりと、泡の神ウタカタに近づいていく。
大地と梅は耳をふさいだ。
この泣き声、うるさすぎる。
何だかこの状況に茫然としてしまい、ただ成り行きを見守ってしまう。
「何をしようとしたの? ウタカタは」
厳しい表情で、再びウタがウタカタに詰め寄る。
「結月を蚕の状態にして、も一度食べようとしたの」
答えたウタカタに対し、今度はカタが問いかけた。
「どうして食べようと思ったの?」
「だってだって、すっごく美味しそうだったからー!」
「「はぁ?」」
ウタとカタは、心底怒った表情でウタカタを睨みつけた。
「じゃ、どうして結月をぐるぐるリボンで巻いてたの?」
「だって、『気枯れ』も小さくして、全部包んでミナ様に、お土産にして持って帰りたかったんだものー!」
「「でもそれじゃ、結月が可哀想でしょ? 結月の心が死んじゃうでしょ?」」
「だって!!!」
「「だってじゃないっ! 泣いたって駄目だよ!! だってばかり言うんじゃない!!!」」
「だって!!! そうしないとミナ様に、アタシが殺されちゃうんだものー!!! うわぁぁぁあん!!!」
「…………」
「…………」
ウタとカタは「情けないなぁ」という表情で、ウタカタを睨みつけた。
「じゃあウタカタは、自分さえ助かれば何でもいいの?!」
ウタカタはもう一言も言わず、わぁわぁと泣き叫んでいるだけである。
「どうして、他の方法を考えようって思わなかったの?」
カタがこう言うと、あたりの景色がいきなり変わった。
岩時神社、本殿の中だ。
四畳半くらいの、畳の間。
中央に、白い杯がひとつ。
その中には、岩時の海から流れ、清められ、岩時の地の隅々まで行き渡り、人々の心と体を守り続けてきた、かの霊水がなみなみと注がれていた。
「あああああぁぁぁぁ…………っ!!!」
七色だったウタカタの体は徐々に、白と黒に染められていった。
顔面蒼白とはまさにこのこと。
肌の色は純白へ。
髪の色は漆黒へ。
ぽつぽつと体ににじみ始めた黒と白の斑点は、巨大化しながらウタカタの全身を覆い始め、大地の目にはウタカタが、今までと違う生き物になったように見えた。
苦しそうにウタカタは、虹色の吐瀉物を吐き出しながら絶叫している。
「キモチ悪いようぅぅー! アタマが痛いようぅぅー! 誰かアタシを助けてようーっ!!!」
「反省した? ウタカタは」
ウタの問い。
だがウタカタは答えられない。
「……………………」
「反省していないなら、そのままでいなさい」
カタの言葉。
ウタカタは、恐怖の表情を浮かべた。
「イヤだー! あ…………アタシ反省したーっ! アタシ、反省したようーーっ!!」
「もう結月に意地悪しない?」
「ううぅーーーーっ!! しない! 絶対にしないようっ!!!」
ウタとカタは目を見合わせて微笑んだ。
「じゃあ、これをあなたが飲むのよ、ウタカタ」
げ!
という顔つきに変わり、ウタカタは絶句した。
「ええーー?! どしてどしてどしてー?!!!」
「これ飲まなきゃ、あなたは元気になれないよ?」
「うっ!!!」
また気持ち悪さが襲ってくる。
ウタカタはさらに吐き続けた。
七色の吐瀉物が、完全に胃の中から消え失せるまで。
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ…………」
叫び声はそのうちすっかり小さくなってしまい、ウタカタはついに折れた。
「…………わかったよ。のむー……」
この苦しみに比べたら、彼らに言われた通りにした方がまだましだと思い始めたらしい。
ウタカタはついに杯を両手で持って、口の中に含んでごくりと飲んだ。
「はい。久遠様」
高天原にいる久遠が、念を使って再び梅に話しかけた。
『頼みがある。泡の神が右手で持つ絵筆に向けて、炎を吐いて欲しい』
「かしこまりました」
梅は小さくなったウタカタの、右手に握られた絵筆に向けて、黄金の炎を勢いよく吐き出した。
バチバチ!
バチバチ!
バチバチ!
「あーっ!! 何するんだー!!」
炎はバチバチと音を立て、黄金色から赤・橙・黄・緑・青・藍・菫の七色に変化し、ウタカタが持つ絵筆を跡形もなくなるまで燃やし尽くした。
「うわーん! アタシの大切なナナイロちゃんがっ!!」
小さくなりかけていたウタカタは、絶叫しながら泣き始めた。
「ひどいよーっ!! 燃やすなんてひどいよーっ!!」
泣き叫びながらウタカタは、大きな炎に呑み込まれていく。
「熱いよーっ!! 熱いよーっ!!」
全身を焼かれた尽くした後、ウタカタの体は徐々に、元の大きさへと戻っていく。
すると、不思議なことに。
大地の手の中にあった小さな蚕はみるみるうちに、多種多様な色を持つ大きなリボンへと変化していった。
ぐるぐる巻きを解いたリボンは、ゆるやかな螺旋を描いた。
そして真っ直ぐの状態に戻り、はらはらと地面へ落ちて消滅し、中にいた結月をついに解放した。
大地は気を失っている結月を抱き止め、彼女の顔を覗き込んだ。
ちゃんと息をしている。
心なしか、楽そうな表情に見える。
最悪の事態は、これで回避できたのかも知れない。
「良かった、ちゃんと生きてるな」
まだ完全に安心はできないが、大地は胸を撫でおろした。
オーロラのように透明感のある白と黒の輝きが、そんな結月を守るように包み込んでいる。
パチパチッ!
その白と黒の輝きは音を立てながら、徐々に形を変えて大きくなっていく。
やがてそれらは柔らかそうな白い肌の、12歳くらいの少年と少女の姿へ変化した。
カールされた金色の髪を揺らした少年は、白く輝く羽衣をトーガのように体に巻きつけている。
銀色の直毛をポニーテールにした少女は、黒と金に輝く羽衣を同じようにぐるぐると、体に巻きつけている。
少し成長した、開陽のウタとカタの姿だ。
「あっ! お前らはトンネルの所にいた……」
大地は思わず叫んだ。
「なんだコイツらー!! うっっ!! なんか…………キモチ悪いぃぃー!!」
ウタカタは恐怖の表情を浮かべ、ドテッと尻もちをつきながら、じりじりと後ずさった。
大地は不思議に思った。
どうしてウタカタは、開陽のウタとカタをこんなにを気味悪がったり、怖がったりしているんだろうか。
ウタとカタを絶対に受けつけたくないといった、嫌悪と拒絶の表情を浮かべている。
2人とも容姿は大変可愛らしいし、別に気持ち悪くも何ともないように見えるのだが。
「こらっ! 結月をいじめちゃダメだろ?」
ウタはお兄ちゃんらしく、諭すようにウタカタへと近づきながら声をかけた。
「ひぃっ!!」
ウタカタはビクッとし、委縮した様子を見せている。
「こらっ! 結月を守ってあげなきゃダメでしょ?」
カタはお姉ちゃんらしく、許さないよという雰囲気で腕組みをしながらウタカタを睨みつけている。
ウタカタは、ぎゃぁーっと言いながら大音響で泣き叫び出した。
「うえぇぇぇぇん! 怖いよう! 嫌だよう! 近くに来ないで! 来ないで来ないで! 来ないでぇぇぇっ!」
開陽のウタとカタはじりじりと、泡の神ウタカタに近づいていく。
大地と梅は耳をふさいだ。
この泣き声、うるさすぎる。
何だかこの状況に茫然としてしまい、ただ成り行きを見守ってしまう。
「何をしようとしたの? ウタカタは」
厳しい表情で、再びウタがウタカタに詰め寄る。
「結月を蚕の状態にして、も一度食べようとしたの」
答えたウタカタに対し、今度はカタが問いかけた。
「どうして食べようと思ったの?」
「だってだって、すっごく美味しそうだったからー!」
「「はぁ?」」
ウタとカタは、心底怒った表情でウタカタを睨みつけた。
「じゃ、どうして結月をぐるぐるリボンで巻いてたの?」
「だって、『気枯れ』も小さくして、全部包んでミナ様に、お土産にして持って帰りたかったんだものー!」
「「でもそれじゃ、結月が可哀想でしょ? 結月の心が死んじゃうでしょ?」」
「だって!!!」
「「だってじゃないっ! 泣いたって駄目だよ!! だってばかり言うんじゃない!!!」」
「だって!!! そうしないとミナ様に、アタシが殺されちゃうんだものー!!! うわぁぁぁあん!!!」
「…………」
「…………」
ウタとカタは「情けないなぁ」という表情で、ウタカタを睨みつけた。
「じゃあウタカタは、自分さえ助かれば何でもいいの?!」
ウタカタはもう一言も言わず、わぁわぁと泣き叫んでいるだけである。
「どうして、他の方法を考えようって思わなかったの?」
カタがこう言うと、あたりの景色がいきなり変わった。
岩時神社、本殿の中だ。
四畳半くらいの、畳の間。
中央に、白い杯がひとつ。
その中には、岩時の海から流れ、清められ、岩時の地の隅々まで行き渡り、人々の心と体を守り続けてきた、かの霊水がなみなみと注がれていた。
「あああああぁぁぁぁ…………っ!!!」
七色だったウタカタの体は徐々に、白と黒に染められていった。
顔面蒼白とはまさにこのこと。
肌の色は純白へ。
髪の色は漆黒へ。
ぽつぽつと体ににじみ始めた黒と白の斑点は、巨大化しながらウタカタの全身を覆い始め、大地の目にはウタカタが、今までと違う生き物になったように見えた。
苦しそうにウタカタは、虹色の吐瀉物を吐き出しながら絶叫している。
「キモチ悪いようぅぅー! アタマが痛いようぅぅー! 誰かアタシを助けてようーっ!!!」
「反省した? ウタカタは」
ウタの問い。
だがウタカタは答えられない。
「……………………」
「反省していないなら、そのままでいなさい」
カタの言葉。
ウタカタは、恐怖の表情を浮かべた。
「イヤだー! あ…………アタシ反省したーっ! アタシ、反省したようーーっ!!」
「もう結月に意地悪しない?」
「ううぅーーーーっ!! しない! 絶対にしないようっ!!!」
ウタとカタは目を見合わせて微笑んだ。
「じゃあ、これをあなたが飲むのよ、ウタカタ」
げ!
という顔つきに変わり、ウタカタは絶句した。
「ええーー?! どしてどしてどしてー?!!!」
「これ飲まなきゃ、あなたは元気になれないよ?」
「うっ!!!」
また気持ち悪さが襲ってくる。
ウタカタはさらに吐き続けた。
七色の吐瀉物が、完全に胃の中から消え失せるまで。
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ…………」
叫び声はそのうちすっかり小さくなってしまい、ウタカタはついに折れた。
「…………わかったよ。のむー……」
この苦しみに比べたら、彼らに言われた通りにした方がまだましだと思い始めたらしい。
ウタカタはついに杯を両手で持って、口の中に含んでごくりと飲んだ。