桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
穢れ血を浴びて
微弱な天璇がついに、解除された。
最強神が目覚め、久遠の自由が無くなったのかも知れない。
高天原の方も絶体絶命な状況であるのは、父が発するある種の切迫感から、大地にも伝わって来た。
これからは、久遠や爽と容易く会話する事が叶わなくなる。
人間世界の一大事は、こちらで何とかするしか無いようである。
「────?!!」
大地は危険を察知し、素早く身構えた。
────ゴァ―……
「何か聞こえる」
だんだんこちらへと近づいて来る。
「今度は何だ?」
────ゴアァァ―ーー……
禍々しい声だ。
「何ごとじゃ?」
脳を破壊するように響いてくる。
「何も聞こえませんが」
クスコと梅には、まだ何も聞こえないようである。
大地にだけ聞こえる。
────何か来る。
だんだん声が大きくなっていく。
────ゴアァァ―ーー……
突然、声が叫びへと変わった。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
『────守りを破れ』
叫びがあたりにこだまする。
この感覚はもしかして。
起こる現象はただ一つ。
「大地震が来る! 梅、飛ぶぞ!」
微弱な揺れが始まっている。
………ゴゴゴゴゴゴゴ!!
いの一番に反応を示した大地が、ドラゴンに変身しながら結月を背中に乗せて、空へと羽ばたいた。
梅も鳳凰の姿に変身してクスコを背に乗せ、素早く飛び上がった。
本殿が大きく揺れ始め、爆音と共に全てを破壊してゆく。
虹の橋は完全に姿を消し、あたりが闇に包まれ、煙を上げ始める。
ガラガラと音を立てて足元が崩れ、地面に大穴が開いた。
そこへ。
一人の男が勢いよく落下してきて、いきなり大地と衝突した。
────ドガッ!!!!
「うわっ!!」
衝撃によるショックでバランスを崩した大地は、結月を背中から落としてしまった。
────バリン!!!!
何かが衝突し、陶器が割れるような音が響く。
大地の背から落ちて落下する結月を、梅がすかさず空中で受け止めた。
────バシャッ!!!!
男の重みに耐えきれず急激に落下しながら、大地だけが陶器からあふれ出した、どす黒い液体を全身に浴びた。
「熱いっ!!!」
焼けるように体が熱い。
そのどす黒い液体は、大地の口の中や喉の奥へ、どんどん入り込んでいく。
むせかえるような邪気と、奇妙な味と香りが広がり始める。
「オエ、何だこの変な味と匂い……」
ムカムカし、吐き気がする。
気づくと大地は、人間の姿に戻っていた。
この香りによるものなのか、力が全く言う事を聞かず、どうあがいてもドラゴンの姿に変身することが出来ない。
液体に包まれた状態で、大地は穴の底へと一直線に落下していく。
「いかん。あれは何かの呪いじゃ」
ぶつかってきた男は白蛇頭の巨大な石に括り付けられ、顔面蒼白のまま気を失いながら、大地と一緒に穴の底へと落ちていく。
梅とクスコが同時に叫んだ。
「大地!!」
「大地よ、みすまるを食え!!!」
「わかった!」
はるか上から聞こえてくる叫び声に、大地は答えた。
あまりにも一瞬の出来事。
クスコや梅と離れてしまった。
だが結月は無事のようである。
こうなったら、なるようになれ。
自分一人でも戦ってやる。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
これは嘆きの声だ。
やるせない叫び声。
その言葉に共鳴するかのように、あちこちから声が上がる。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────犯せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────奪え。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────盗め。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────殺せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────勝ち取れ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────弱者を貶せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────我こそ正義。
何なんだよこの思考は。
反吐が出る。
ぶっ潰してやる。
下へ下へと落ちながら、怒りがどんどん湧きあがり、ひどい吐き気が襲ってきた。
首にかかったみすまるの、大きな勾玉をひとつ外して、大地はそれを口の中へと放り込んだ。
甘い味が広がる。
地の底から吹き上がる激情。
激しい怒りから来る、熱。
自分の中でも沸き起こる。
体の芯が燃えるように熱い。
「許さねぇ…………!」
梅の背中でクスコは言った。
「岩の神フツヌシの力じゃ。ワシに刺さっていた破魔矢じゃった一体が、大声で叫んでおった」
「フツヌシ、ですか」
「うむ。恐らく、何か訳があるのじゃろうがの、不覚をとったわい。じゃが、大地を探すのは後回しじゃ。ワシらは結月を本殿の外へ出し、まずは安全な場所へと連れて行くぞ、梅よ」
「ですが…………」
「大地を信じるのじゃ。簡単にくたばるようなヤツではあるまいて」
「…………はい」
「すまぬのう。梅」
その謝罪が大地を救えなかった事に対するものなのか、結月とクスコの二体を背負わせている事に対するものなのかわからなかったが、梅は首を横に振った。
「いえ。あなたはヒマリに変身するだけで、本当は精いっぱいだったのでは?」
と梅はクスコに問いかけた。
「…………バレておったか」
クスコの力は、本調子からは依然として程遠かった。
「ええ。ですが、おっしゃる通りですね。まずは結月を、安全な場所へと運びましょう」
クスコの言う通り、今は大地を信じてみるより他はない。
梅は本殿入口へと進路を変えて、羽ばたき出した。
白龍神・久遠の天璇が完全に解除されたと同時に、起こった現象とは。
より強いものへと力が集まり始めた、という事である。
黒龍側の神々の、強大で醜い本能。
それらが本殿へと集まり、岩時の神体の力と影響を与え合い、さらに巨大化していったのだ。
これにより、清らかな状態に保たれていた岩時の地は無残に穢され、『光る魂』を狩りたい者達の衝動によって犯されていく。
黒龍側の神であるフツヌシの叫びは、ほんの序章だ。
クナドは彼の叫びによって沸き起こった地震のおかげで、命拾いした。
その、ほんの少し前。
ガラガラガラ…………
ガラガラガラ…………
クナドが意識を失っているうちに、カナメと三体の女霊獣達は、彼《クナド》が括り付けられた石ごと台車に乗せながら運んでいた。
「あと少しで本殿入口に到着します」
サキの言葉に、カナメは無言で頷いた。
白蛇頭の大きな石に括り付けられたクナドは、ずっと気を失っている。
血をほとんど搾り取られ、彼は真っ白な顔をしていた。
本殿の外へクナドを追い出した後は、外にいる霊獣達に彼を見張らせ、カナメは別な神を探すことに専念するつもりだった。
………ゴゴゴゴゴゴゴ!!
轟音が鳴り響き、地面に突然穴が開いた。
白蛇のサワが、一番早く反応した。
「地震です! 飛んでください!」
サワ自身が飛べれば一番良かったのだが、生憎彼女はそれが出来ない。
イズミはサワの叫び声と足元が崩れ落ちたショックで、クナドの血が99%入った白銀色の湯呑から、うっかり手を放してしまった。
石に括り付けられた状態のクナドの本体と小さな湯呑が、穴の底へ落下していく。
声に反応したサキは大きな怪鳥へと変身し、カナメ、サワ、イズミを背に乗せて羽ばたいた。
クナドはグングンと、穴の底へとまっしぐらに落ちていき、見えなくなってしまっていた。
────バリン!!!!
何かと衝突し、陶器が割れるような音が響く。
「あー…………ゲスの血が……」
イズミは残念そうに呟いた。
いや、そこじゃないだろ。
カナメはイズミの言葉に、心の中で激しくツッコミを入れた。
あいつ、下に落ちて行っちまった。
あと一歩だったのに。
カナメは眉間にしわを寄せ、深いため息をつきながら、振り出しに戻ってしまったような疲労と苦痛を体感した。
最強神が目覚め、久遠の自由が無くなったのかも知れない。
高天原の方も絶体絶命な状況であるのは、父が発するある種の切迫感から、大地にも伝わって来た。
これからは、久遠や爽と容易く会話する事が叶わなくなる。
人間世界の一大事は、こちらで何とかするしか無いようである。
「────?!!」
大地は危険を察知し、素早く身構えた。
────ゴァ―……
「何か聞こえる」
だんだんこちらへと近づいて来る。
「今度は何だ?」
────ゴアァァ―ーー……
禍々しい声だ。
「何ごとじゃ?」
脳を破壊するように響いてくる。
「何も聞こえませんが」
クスコと梅には、まだ何も聞こえないようである。
大地にだけ聞こえる。
────何か来る。
だんだん声が大きくなっていく。
────ゴアァァ―ーー……
突然、声が叫びへと変わった。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
『────守りを破れ』
叫びがあたりにこだまする。
この感覚はもしかして。
起こる現象はただ一つ。
「大地震が来る! 梅、飛ぶぞ!」
微弱な揺れが始まっている。
………ゴゴゴゴゴゴゴ!!
いの一番に反応を示した大地が、ドラゴンに変身しながら結月を背中に乗せて、空へと羽ばたいた。
梅も鳳凰の姿に変身してクスコを背に乗せ、素早く飛び上がった。
本殿が大きく揺れ始め、爆音と共に全てを破壊してゆく。
虹の橋は完全に姿を消し、あたりが闇に包まれ、煙を上げ始める。
ガラガラと音を立てて足元が崩れ、地面に大穴が開いた。
そこへ。
一人の男が勢いよく落下してきて、いきなり大地と衝突した。
────ドガッ!!!!
「うわっ!!」
衝撃によるショックでバランスを崩した大地は、結月を背中から落としてしまった。
────バリン!!!!
何かが衝突し、陶器が割れるような音が響く。
大地の背から落ちて落下する結月を、梅がすかさず空中で受け止めた。
────バシャッ!!!!
男の重みに耐えきれず急激に落下しながら、大地だけが陶器からあふれ出した、どす黒い液体を全身に浴びた。
「熱いっ!!!」
焼けるように体が熱い。
そのどす黒い液体は、大地の口の中や喉の奥へ、どんどん入り込んでいく。
むせかえるような邪気と、奇妙な味と香りが広がり始める。
「オエ、何だこの変な味と匂い……」
ムカムカし、吐き気がする。
気づくと大地は、人間の姿に戻っていた。
この香りによるものなのか、力が全く言う事を聞かず、どうあがいてもドラゴンの姿に変身することが出来ない。
液体に包まれた状態で、大地は穴の底へと一直線に落下していく。
「いかん。あれは何かの呪いじゃ」
ぶつかってきた男は白蛇頭の巨大な石に括り付けられ、顔面蒼白のまま気を失いながら、大地と一緒に穴の底へと落ちていく。
梅とクスコが同時に叫んだ。
「大地!!」
「大地よ、みすまるを食え!!!」
「わかった!」
はるか上から聞こえてくる叫び声に、大地は答えた。
あまりにも一瞬の出来事。
クスコや梅と離れてしまった。
だが結月は無事のようである。
こうなったら、なるようになれ。
自分一人でも戦ってやる。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
これは嘆きの声だ。
やるせない叫び声。
その言葉に共鳴するかのように、あちこちから声が上がる。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────犯せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────奪え。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────盗め。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────殺せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────勝ち取れ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────弱者を貶せ。
────ゴアァァ―ーーッ!!!
────我こそ正義。
何なんだよこの思考は。
反吐が出る。
ぶっ潰してやる。
下へ下へと落ちながら、怒りがどんどん湧きあがり、ひどい吐き気が襲ってきた。
首にかかったみすまるの、大きな勾玉をひとつ外して、大地はそれを口の中へと放り込んだ。
甘い味が広がる。
地の底から吹き上がる激情。
激しい怒りから来る、熱。
自分の中でも沸き起こる。
体の芯が燃えるように熱い。
「許さねぇ…………!」
梅の背中でクスコは言った。
「岩の神フツヌシの力じゃ。ワシに刺さっていた破魔矢じゃった一体が、大声で叫んでおった」
「フツヌシ、ですか」
「うむ。恐らく、何か訳があるのじゃろうがの、不覚をとったわい。じゃが、大地を探すのは後回しじゃ。ワシらは結月を本殿の外へ出し、まずは安全な場所へと連れて行くぞ、梅よ」
「ですが…………」
「大地を信じるのじゃ。簡単にくたばるようなヤツではあるまいて」
「…………はい」
「すまぬのう。梅」
その謝罪が大地を救えなかった事に対するものなのか、結月とクスコの二体を背負わせている事に対するものなのかわからなかったが、梅は首を横に振った。
「いえ。あなたはヒマリに変身するだけで、本当は精いっぱいだったのでは?」
と梅はクスコに問いかけた。
「…………バレておったか」
クスコの力は、本調子からは依然として程遠かった。
「ええ。ですが、おっしゃる通りですね。まずは結月を、安全な場所へと運びましょう」
クスコの言う通り、今は大地を信じてみるより他はない。
梅は本殿入口へと進路を変えて、羽ばたき出した。
白龍神・久遠の天璇が完全に解除されたと同時に、起こった現象とは。
より強いものへと力が集まり始めた、という事である。
黒龍側の神々の、強大で醜い本能。
それらが本殿へと集まり、岩時の神体の力と影響を与え合い、さらに巨大化していったのだ。
これにより、清らかな状態に保たれていた岩時の地は無残に穢され、『光る魂』を狩りたい者達の衝動によって犯されていく。
黒龍側の神であるフツヌシの叫びは、ほんの序章だ。
クナドは彼の叫びによって沸き起こった地震のおかげで、命拾いした。
その、ほんの少し前。
ガラガラガラ…………
ガラガラガラ…………
クナドが意識を失っているうちに、カナメと三体の女霊獣達は、彼《クナド》が括り付けられた石ごと台車に乗せながら運んでいた。
「あと少しで本殿入口に到着します」
サキの言葉に、カナメは無言で頷いた。
白蛇頭の大きな石に括り付けられたクナドは、ずっと気を失っている。
血をほとんど搾り取られ、彼は真っ白な顔をしていた。
本殿の外へクナドを追い出した後は、外にいる霊獣達に彼を見張らせ、カナメは別な神を探すことに専念するつもりだった。
………ゴゴゴゴゴゴゴ!!
轟音が鳴り響き、地面に突然穴が開いた。
白蛇のサワが、一番早く反応した。
「地震です! 飛んでください!」
サワ自身が飛べれば一番良かったのだが、生憎彼女はそれが出来ない。
イズミはサワの叫び声と足元が崩れ落ちたショックで、クナドの血が99%入った白銀色の湯呑から、うっかり手を放してしまった。
石に括り付けられた状態のクナドの本体と小さな湯呑が、穴の底へ落下していく。
声に反応したサキは大きな怪鳥へと変身し、カナメ、サワ、イズミを背に乗せて羽ばたいた。
クナドはグングンと、穴の底へとまっしぐらに落ちていき、見えなくなってしまっていた。
────バリン!!!!
何かと衝突し、陶器が割れるような音が響く。
「あー…………ゲスの血が……」
イズミは残念そうに呟いた。
いや、そこじゃないだろ。
カナメはイズミの言葉に、心の中で激しくツッコミを入れた。
あいつ、下に落ちて行っちまった。
あと一歩だったのに。
カナメは眉間にしわを寄せ、深いため息をつきながら、振り出しに戻ってしまったような疲労と苦痛を体感した。