桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
諸刃の剣
「まずは、そなたの力を知るとしよう」
トワケは大地の方へ、そっと右手を近づけた。
────パッ!!
発火したような光がトワケの右手から放たれ、大地の額に緩やかにあたる。
「わっ!」
熱を持った奇妙な生き物が額に当たったような感覚を覚え、大地は小さな声を上げた。
「大地よ、今からそなたの力の『型』がどのようなものかを確認する。…………姫榊、我に力を貸してくれ」
「はい」
姫榊はトワケの方にそっと近づき、彼の肩に手を置いた。
「そなたらもじゃ」
「わかりました!」
「了解しました」
白艶、黒艶が近づき、トワケの背中に手を当てた。
力を添えるように、体に手を当てて彼女らが念を送ると、トワケの手から放たれる光がどんどん大きくなっていく。
「目を瞑ってしばらくの間、黙ったまま聞いておれ。大地よ」
「…………ああ」
大地は目を瞑った。
「姫榊はどの力が現れたのかを、言葉に。姫毬はそれを円石に書き記すように」
「ええ、お師匠」
姫毬は両手を上げ、ぶつぶつと言葉を唱えた。
すると彼女の目の前にはひとつの、緑色の綺麗な石が中央で輝く、小さな丸い石が現れた。
トワケの右手から、また光が放たれた。
姫榊が声に出し、大地の力の存在を言葉に変える。
姫毬はそれを余さず石に、書き記した。
****************************
【天璇】
黒龍側の神の力を削ぎ、白龍側の神に力を与える
【黒天璇】
白龍側の神の力を削ぎ、黒龍側の神に力を与える
【玉衡】
慈愛の力。内なる力を膨らませ、さらなる力を与える
※自身の開陽(魂の核)との会話後にしか使えない
「これは…………初めて見るぞ」
トワケの声が、震えながら響いた。
玉衡を見るのが初めてというのは、本当であるらしい。
【黒玉衡】
内なる力を破壊し、心を奪い、殺す力。侮蔑の力
「玉衡の、逆の力か! そもそもなぜ白龍と人間の血を持つ大地が、『反転の力』を持っておるのじゃ…………」
【天権】
誰かを、何かを、呼び寄せる力
「これほどの……! 最高神に近いもので無ければ、このような力は与えられぬ」
【黒天権】
誰かを、何かを、どこかへと飛ばす力
「また反転の力か! …………こんなにくっきりと浮かび上がるとはの。もしかすると大地、そなたは全ての『反転』を持っておるのか?」
【天璣】
光を生み出す
「…………もしやとは思うが」
【黒天璣】
闇を生み出す
「これは…………もはや我の手には負えぬかもしれぬ。白と黒の力を併せ持つ存在など、神々の中にはおらぬのじゃからな」
【天枢】
空間を把握し、構築する
「まさしく異形じゃ」
【黒天枢】
空間を破り、壊す
「このような恐ろしい力、見たことが無い。…………こんな震えは初めて体感するぞ」
【揺光】
※咲蔵の源・大地本来の力。
最上の癒し効果。未知数
「やはり。最強の癒しの力。先ほど我を治した大地の力は、伝説の『揺光』だったのじゃな」
****************************
「もう喋ってもよいぞ、大地よ」
トワケの言葉に、大地はようやく口を開いた。
「…………ああ」
「そなた、一体どういう生き方をしておったのじゃ。まだ我に隠しておることは無いのか」
大地はうんざりした。
またいちいち、質問攻めか。
「隠していたわけじゃねぇ。面倒だから言わなかっただけだ」
「何をじゃ」
大地はしぶしぶ、話し出した。
1歳から6歳までの幼少期、いわれの無い理由で親から『隔離』されて育ったこと。
入れられた『隔離室』は、他者との隔離によって苦痛を生じさせ、『力』を完全に奪うような仕組みに作られた、神々が作り上げた『悪意の暗闇』だったこと。
何故そこに入れられたのか、理由はついに明かされなかったこと。
忘れないと生きられないので、それを思い出さないようにしていたこと。
話を聞くにつれて感銘を受けたように、老紳士は大地をしげしげと見つめ始めた。
「じゃがそなたの目は、真っ直ぐじゃの」
何をされても、どんな目に遭っても、純粋な気持ちを忘れていない。
そう言っているようではないか。
「…………いっちょ信じてみるかのう。計り知れない力なのが、末恐ろしいが…………。大地よ、これだけはようく、覚えておくのじゃ」
老紳士の声が、一段と冷静に響く。
「これからそなたが目覚めさせる力を『自分だけのもの』だとは、決して思ってはならぬ」
トワケが言わんとすることがわからず、大地は不思議そうに首を傾げた。
「…………?」
「力とは本来、贈られたものなのじゃ。それを、はき違えてはならぬ」
「…………」
「誕生した際に受け取った『力』は、縁あって偶然、授かって与えられたもの。それをそなたの最奥まで潜り、自身の力へと変換し、何かに向けて贈り返す。それが本来の使い方」
「…………」
「ときには、生きるために、食うために、守るために、力を使わざるを得ない状況もある。じゃが何事も、わきまえぬまま欲望に支配されし者は、せっかく与えられた力の使い方を誤り、その身を滅ぼす。『もらったものを返す』。それ以外の力の使い方を、してはならぬ」
自分の力は、贈られたもの。
このような考えを聞くのは、生まれて初めてだった。
『隔離室』の闇の中にいる間は決して、そのような考えに及ばなかったのである。
ただ生きるだけで精いっぱいで、隙あらば死んでしまいたいと思っていたのだから。
「生き物の力というのはどこまでも不可解で、未知なるもの。自身を掌握し、限界まで成長させることは出来たとしても、使い過ぎては他者の生命をも危機にさらす。やみくもに思うがまま利用しようなどとはゆめゆめ、思ってはならぬ」
もらったものを与え返す。
それを忘れないでいる。
「…………ああ」
大地は頷いた。
急に、さくらの笑顔を思い出す。
仲間達と遊んだ、楽しい思い出も。
自分は彼らからいつも、力を贈られ続けていた。
会えることが嬉しくて、話せることが楽しみで、それを力に変えて生きてきた。
どんなに苦しい出来事があったとしても、彼らを思い出した途端に頑張れた。
トワケの言いたい事は、何となく大地にも理解できた。
「…………もし無意識のうちに、力の使い方を間違えた場合は、どうなるんだ?」
「どこかに負荷がかかり、反転し、途端に力が、黒く濁る」
大地は大きく目を見開いた。
「黒く…………」
「先ほど読み上げた通り、『反転の力』へと変化する。お主の力は諸刃の剣じゃ」
諸刃の剣。
つまり自分は生まれながらに、いや、育った環境のせいで、白龍の力と黒龍の力の、両方を併せ持っているということか。
大地は唖然とした。
「それでも成長させねば力は使えぬ。度を超えた欲望を叶えるために使った場合、何らかの呪いが生み出される。そしてその呪いは、間違いなく自分へと跳ね返ってくるのじゃ。それが力の正体じゃからの」
度を超えた欲望って、一体何だ。
大地には良くわからない。
さくらと結婚し、一緒に暮らしたいと願う事は、度を超えた欲望にあたるのだろうか。
だが逆に、こうも思った。
強い力など、本当はいらない。
もし人間になれるのならば、必要の無い力は全て、どこかへと贈ろう。
あいつらを助けるため以外に使う必要など、どこにも無いのだから。
さくらと同じ人間になって、互いを思い遣りながら寿命を全うできれば、大地はそれだけでいい。
「わかった」
頷いた大地に、口髭に覆われたトワケは、優しい笑顔を向けた。
トワケは大地の方へ、そっと右手を近づけた。
────パッ!!
発火したような光がトワケの右手から放たれ、大地の額に緩やかにあたる。
「わっ!」
熱を持った奇妙な生き物が額に当たったような感覚を覚え、大地は小さな声を上げた。
「大地よ、今からそなたの力の『型』がどのようなものかを確認する。…………姫榊、我に力を貸してくれ」
「はい」
姫榊はトワケの方にそっと近づき、彼の肩に手を置いた。
「そなたらもじゃ」
「わかりました!」
「了解しました」
白艶、黒艶が近づき、トワケの背中に手を当てた。
力を添えるように、体に手を当てて彼女らが念を送ると、トワケの手から放たれる光がどんどん大きくなっていく。
「目を瞑ってしばらくの間、黙ったまま聞いておれ。大地よ」
「…………ああ」
大地は目を瞑った。
「姫榊はどの力が現れたのかを、言葉に。姫毬はそれを円石に書き記すように」
「ええ、お師匠」
姫毬は両手を上げ、ぶつぶつと言葉を唱えた。
すると彼女の目の前にはひとつの、緑色の綺麗な石が中央で輝く、小さな丸い石が現れた。
トワケの右手から、また光が放たれた。
姫榊が声に出し、大地の力の存在を言葉に変える。
姫毬はそれを余さず石に、書き記した。
****************************
【天璇】
黒龍側の神の力を削ぎ、白龍側の神に力を与える
【黒天璇】
白龍側の神の力を削ぎ、黒龍側の神に力を与える
【玉衡】
慈愛の力。内なる力を膨らませ、さらなる力を与える
※自身の開陽(魂の核)との会話後にしか使えない
「これは…………初めて見るぞ」
トワケの声が、震えながら響いた。
玉衡を見るのが初めてというのは、本当であるらしい。
【黒玉衡】
内なる力を破壊し、心を奪い、殺す力。侮蔑の力
「玉衡の、逆の力か! そもそもなぜ白龍と人間の血を持つ大地が、『反転の力』を持っておるのじゃ…………」
【天権】
誰かを、何かを、呼び寄せる力
「これほどの……! 最高神に近いもので無ければ、このような力は与えられぬ」
【黒天権】
誰かを、何かを、どこかへと飛ばす力
「また反転の力か! …………こんなにくっきりと浮かび上がるとはの。もしかすると大地、そなたは全ての『反転』を持っておるのか?」
【天璣】
光を生み出す
「…………もしやとは思うが」
【黒天璣】
闇を生み出す
「これは…………もはや我の手には負えぬかもしれぬ。白と黒の力を併せ持つ存在など、神々の中にはおらぬのじゃからな」
【天枢】
空間を把握し、構築する
「まさしく異形じゃ」
【黒天枢】
空間を破り、壊す
「このような恐ろしい力、見たことが無い。…………こんな震えは初めて体感するぞ」
【揺光】
※咲蔵の源・大地本来の力。
最上の癒し効果。未知数
「やはり。最強の癒しの力。先ほど我を治した大地の力は、伝説の『揺光』だったのじゃな」
****************************
「もう喋ってもよいぞ、大地よ」
トワケの言葉に、大地はようやく口を開いた。
「…………ああ」
「そなた、一体どういう生き方をしておったのじゃ。まだ我に隠しておることは無いのか」
大地はうんざりした。
またいちいち、質問攻めか。
「隠していたわけじゃねぇ。面倒だから言わなかっただけだ」
「何をじゃ」
大地はしぶしぶ、話し出した。
1歳から6歳までの幼少期、いわれの無い理由で親から『隔離』されて育ったこと。
入れられた『隔離室』は、他者との隔離によって苦痛を生じさせ、『力』を完全に奪うような仕組みに作られた、神々が作り上げた『悪意の暗闇』だったこと。
何故そこに入れられたのか、理由はついに明かされなかったこと。
忘れないと生きられないので、それを思い出さないようにしていたこと。
話を聞くにつれて感銘を受けたように、老紳士は大地をしげしげと見つめ始めた。
「じゃがそなたの目は、真っ直ぐじゃの」
何をされても、どんな目に遭っても、純粋な気持ちを忘れていない。
そう言っているようではないか。
「…………いっちょ信じてみるかのう。計り知れない力なのが、末恐ろしいが…………。大地よ、これだけはようく、覚えておくのじゃ」
老紳士の声が、一段と冷静に響く。
「これからそなたが目覚めさせる力を『自分だけのもの』だとは、決して思ってはならぬ」
トワケが言わんとすることがわからず、大地は不思議そうに首を傾げた。
「…………?」
「力とは本来、贈られたものなのじゃ。それを、はき違えてはならぬ」
「…………」
「誕生した際に受け取った『力』は、縁あって偶然、授かって与えられたもの。それをそなたの最奥まで潜り、自身の力へと変換し、何かに向けて贈り返す。それが本来の使い方」
「…………」
「ときには、生きるために、食うために、守るために、力を使わざるを得ない状況もある。じゃが何事も、わきまえぬまま欲望に支配されし者は、せっかく与えられた力の使い方を誤り、その身を滅ぼす。『もらったものを返す』。それ以外の力の使い方を、してはならぬ」
自分の力は、贈られたもの。
このような考えを聞くのは、生まれて初めてだった。
『隔離室』の闇の中にいる間は決して、そのような考えに及ばなかったのである。
ただ生きるだけで精いっぱいで、隙あらば死んでしまいたいと思っていたのだから。
「生き物の力というのはどこまでも不可解で、未知なるもの。自身を掌握し、限界まで成長させることは出来たとしても、使い過ぎては他者の生命をも危機にさらす。やみくもに思うがまま利用しようなどとはゆめゆめ、思ってはならぬ」
もらったものを与え返す。
それを忘れないでいる。
「…………ああ」
大地は頷いた。
急に、さくらの笑顔を思い出す。
仲間達と遊んだ、楽しい思い出も。
自分は彼らからいつも、力を贈られ続けていた。
会えることが嬉しくて、話せることが楽しみで、それを力に変えて生きてきた。
どんなに苦しい出来事があったとしても、彼らを思い出した途端に頑張れた。
トワケの言いたい事は、何となく大地にも理解できた。
「…………もし無意識のうちに、力の使い方を間違えた場合は、どうなるんだ?」
「どこかに負荷がかかり、反転し、途端に力が、黒く濁る」
大地は大きく目を見開いた。
「黒く…………」
「先ほど読み上げた通り、『反転の力』へと変化する。お主の力は諸刃の剣じゃ」
諸刃の剣。
つまり自分は生まれながらに、いや、育った環境のせいで、白龍の力と黒龍の力の、両方を併せ持っているということか。
大地は唖然とした。
「それでも成長させねば力は使えぬ。度を超えた欲望を叶えるために使った場合、何らかの呪いが生み出される。そしてその呪いは、間違いなく自分へと跳ね返ってくるのじゃ。それが力の正体じゃからの」
度を超えた欲望って、一体何だ。
大地には良くわからない。
さくらと結婚し、一緒に暮らしたいと願う事は、度を超えた欲望にあたるのだろうか。
だが逆に、こうも思った。
強い力など、本当はいらない。
もし人間になれるのならば、必要の無い力は全て、どこかへと贈ろう。
あいつらを助けるため以外に使う必要など、どこにも無いのだから。
さくらと同じ人間になって、互いを思い遣りながら寿命を全うできれば、大地はそれだけでいい。
「わかった」
頷いた大地に、口髭に覆われたトワケは、優しい笑顔を向けた。