桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞
君は誰?
夢にしては、長すぎる。
紺野は孤独感にさいなまれた。
この奇妙な『扉工房』にたった一人残されてから、かなりの時が経過している。
頭がガンガン痛くなるとともに、腹の奥底から急激に吐き気が這い上がってくる。
いきなりチョイチョイ、と肩をつつかれ、紺野はビクッと飛び上がった。
「うわっ?」
紺野の視界に、小さな小さな小指くらいの女の子が飛び込んできた。
ぶーんと背中にある四枚の透明な羽をはためかせながら、彼女は笑顔を浮かべ、空中に浮かんでいる。
「う、わ。うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
クスコの時と同じショックが蘇る。
薄緑色の大きな瞳に、薄紫色の着物を着た、10歳前後の愛らしい少女だ。
「……………………」
「君は…………誰?」
少女は首を横に振った。
どうやら会話はできないらしい。
「君、クナドを知っている?」
少女は頷いた。
「僕がクナドじゃないことも?」
少女はもう一度頷いた。
入れ替わりのことは、お見通しであるらしい。
彼女は、円鏡を指さした。
「?」
中を覗き込むと、そこには大地が映し出されている。
少女は紺野に訴えるように、円鏡の中の彼をつつきながら指さしている。
「大地がどうかしたの?」
「……………………」
紺野の手に握られた黒樺の杖を、次に少女は指さした。
まるで、これを使え、と言っているようだ。
「うーん…………ごめんね。僕は、魔法みたいな力を使えないんだよ」
少女はそれを否定するかのように、ぶんぶんと首を振った。
ううん、使えるんだよ!
と、言っているみたいに見える。
「君と会話ができたらいいのにね」
紺野は心の霧が晴れない状態で、モヤモヤとしてしまう。
今、自分に起こっている出来事は一体、何なのだろう?
紺野は現在、黒龍が描かれた杖を握ってており、道の神クナドの顔と体の状態で、この扉だらけの鍾乳洞に立っている。
「本物のクナドはさっき、この円鏡の中に消えてしまったみたいなんだ」
紺野和真の体ごと。
少女はもう一度頷いた。
知ってるよ。
と言っているみたいに見える。
「…………どうすればいいんだろう」
少女はパタパタと空を飛び、円鏡に刻まれた白と黒のドラゴンを模った装飾に埋め込まれている、緑色の石を指さした。
『これこれ。この石を押してみて!』
と。紺野に言っている。
…………ように見える。
「…………??」
少し震えながら、紺野は緑色の石をカチッと押した。
すると鏡の中の光景が、スイッチが切り替わるように、どこかへと移動した。
新しい映像の中では、紺野の体が見知らぬどこかの地面の上に仰向けの状態になり、たった一人で倒れている姿が映し出されている。
もう死んでいるのだろうか?
目を瞑って、倒れたまま動かない。
近くには奇妙な虹色の橋が見えるが、この場所は一体どこなのだろう。
トンボのように透き通った四枚の羽を動かして飛んでいる少女は、もう一度緑色の石を押すように、と、紺野を見ながら円鏡を指さした。
カチッ。
指示されるがまま石を押すと、紺野が手にした円鏡の中に、別な映像がくっきりと映し出された。
トワケが杖から放つ光と、大地が杖から放つ闇が、円を描きながら交わっている。
光と闇の力は、グルグルグルグルと、混ざり合う。
まるで白と黒のドラゴンが、追いかけ合うかのように。
どうやら大地は、光を生み出す力の使い方を、老紳士から教わっているようだ。
圧倒的な光の強さに闇が負け、シュッと音を立てながら消え去っていく。
トワケ老人は大地を信じ、親切心から彼の力のレベル上げを手伝おうとしている。
大地の力は黒に転じやすいらしい。
白と黒の力の両方を持っている大地が、その使い方を誤ってしまってはとても危ない。
『天枢』という力が黒に転じた場合が最も恐ろしい、とトワケ老人が彼に教えていた。
現実とかけ離れた情報なので、どう捉えればいいか、紺野にはわからない。
けれど今、道の神クナドの姿をしている紺野にとって、どういうわけかこの会話の内容が『体』の中では理解できているような気がする。
もし『黒天枢』という力を大地が使ってしまった場合、トワケの言う通り、誰にも彼を止める事が出来なくなってしまうのかも知れない。
────大丈夫なのだろうか?
大地が成長すればするほど危険な存在に変わってしまう事を、老人はかなり危惧しているようにも見える。
さらに、驚愕の内容も耳にする。
神が選んだ五人の生贄について。
自分はその一人にあたるのでは無いか、ということ。
だからこんな奇妙な場所に、迷い込んでしまったのだろうか。
結局のところクナドが狙っていたのは、自分に宿る『光る魂』だったのだと考えれば、今までの出来事の流れに筋が通るような気はする。
血を吸う行為と魂を食べる行為の結びつきは、良くわからないけれど。
大変物騒で、とても現実に起きている出来事とは思えない。
だが話を聞いたことにより、大地がしようとしている事は紺野にも理解できた。
自分達五人を助けるために、大地は動いてくれている。
彼は危険を承知で戦う事を決め、自身の力を成長させている。
そして……紺野が最も気にかかっている事は。
露木さくらも、生贄に選ばれたのではないかということだ。
クナドは彼女を知っていた。
狙われていたとしても不思議はない。
心臓がドクドクと、激しくて嫌な動きをし始める。
彼女は今、どこにいるのだろう?
自分よりもさらに、危険な目に遭っているのでは無いだろうか?
自身の不安や恐怖よりも先に、彼女の身を案ずる気持ちに押しつぶされそうになってしまう。
万が一、大地が黒い力の制御に失敗でもしたら、一体どうなってしまうのだろう。
考えたくは無いが、大地が黒龍側の神の力に、完全に負けた場合は?
クナドのような輩に大地が操られるという事態も、十分に考えられる。
そうなったら一体誰が、さくらや他の仲間を助けるのだろう。
「────まただ」
自分は、考え過ぎていけない。
慌てて首を振り、ため息をつく。
それを見ていた小さな女の子は、羽ばたきながら少しずつ近づいてきて、白い羽冠が嵌ったクナドの、つまり紺野の頭をよしよしと撫でた。
「…………ありがとう」
慰めてくれているのだろうか?
その小さな手の温もりに癒される。
彼女との出会いは、絶望に近い状況の中の、たった一つの希望のように思われた。
「大地には、何としてでも扉工房まで来て欲しいのに」
円鏡に向けて、紺野は声をかけた。
「大地!」
何度話しかけても、円鏡の中の大地はこちらに気づかない。
「こっちの声は聞こえないのか」
少女は羽ばたきながら、紺野に向かってある『念』を送った。
「…………君が言ってるの?」
少女は頷く。
彼女が紺野に訴えている。
それを言葉にして! と。
「わかったよ」
君の言う通り、やってみる。
「────天枢」
馴染み深い響き。
それもそのはず。
それは道の神クナドが最も得意とする『力』の名前なのだから。
────グンッ!!
あたりは扉工房ではなく、別な空間に切り替わって見えた。
ここは────空だ。
急降下していく感覚が襲う。
丸い時計の形が見えてくる。
城の屋根が視界に飛び込む。
中央にあるのは、大きな天守閣だ。
その周りを囲むようにして、六つの櫓が見える。
二時の方角には、扉ばかりが固まってできた、扉工房。
四時の方角には、色とりどりの珊瑚がグネグネと絡み合って動く、塔。
六時の方角には、ごつごつした巨大な岩が乱立している。
八時の方角には、乳白色の羽衣が幾重にも巻かれたような形の、城。
十時の方角には、巨大な螺旋がいくつか入り組んで作られた、迷路みたいな建物。
そして十二時の方角は、虹色に輝く泡でできた、雲のような塊。
紺野は八時の方角にある、美しい羽衣が巻かれたような、得体の知れない城が気になった。
もう一度黒樺の杖を振り、天枢を使って、羽衣の城だけ覗き見た。
城の中に、露木さくらがいた。
彼女は奇妙な羽衣にグルグルと巻かれ、近くにいる五歳くらいの少年に、何かを話しかけられていた。
紺野は孤独感にさいなまれた。
この奇妙な『扉工房』にたった一人残されてから、かなりの時が経過している。
頭がガンガン痛くなるとともに、腹の奥底から急激に吐き気が這い上がってくる。
いきなりチョイチョイ、と肩をつつかれ、紺野はビクッと飛び上がった。
「うわっ?」
紺野の視界に、小さな小さな小指くらいの女の子が飛び込んできた。
ぶーんと背中にある四枚の透明な羽をはためかせながら、彼女は笑顔を浮かべ、空中に浮かんでいる。
「う、わ。うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
クスコの時と同じショックが蘇る。
薄緑色の大きな瞳に、薄紫色の着物を着た、10歳前後の愛らしい少女だ。
「……………………」
「君は…………誰?」
少女は首を横に振った。
どうやら会話はできないらしい。
「君、クナドを知っている?」
少女は頷いた。
「僕がクナドじゃないことも?」
少女はもう一度頷いた。
入れ替わりのことは、お見通しであるらしい。
彼女は、円鏡を指さした。
「?」
中を覗き込むと、そこには大地が映し出されている。
少女は紺野に訴えるように、円鏡の中の彼をつつきながら指さしている。
「大地がどうかしたの?」
「……………………」
紺野の手に握られた黒樺の杖を、次に少女は指さした。
まるで、これを使え、と言っているようだ。
「うーん…………ごめんね。僕は、魔法みたいな力を使えないんだよ」
少女はそれを否定するかのように、ぶんぶんと首を振った。
ううん、使えるんだよ!
と、言っているみたいに見える。
「君と会話ができたらいいのにね」
紺野は心の霧が晴れない状態で、モヤモヤとしてしまう。
今、自分に起こっている出来事は一体、何なのだろう?
紺野は現在、黒龍が描かれた杖を握ってており、道の神クナドの顔と体の状態で、この扉だらけの鍾乳洞に立っている。
「本物のクナドはさっき、この円鏡の中に消えてしまったみたいなんだ」
紺野和真の体ごと。
少女はもう一度頷いた。
知ってるよ。
と言っているみたいに見える。
「…………どうすればいいんだろう」
少女はパタパタと空を飛び、円鏡に刻まれた白と黒のドラゴンを模った装飾に埋め込まれている、緑色の石を指さした。
『これこれ。この石を押してみて!』
と。紺野に言っている。
…………ように見える。
「…………??」
少し震えながら、紺野は緑色の石をカチッと押した。
すると鏡の中の光景が、スイッチが切り替わるように、どこかへと移動した。
新しい映像の中では、紺野の体が見知らぬどこかの地面の上に仰向けの状態になり、たった一人で倒れている姿が映し出されている。
もう死んでいるのだろうか?
目を瞑って、倒れたまま動かない。
近くには奇妙な虹色の橋が見えるが、この場所は一体どこなのだろう。
トンボのように透き通った四枚の羽を動かして飛んでいる少女は、もう一度緑色の石を押すように、と、紺野を見ながら円鏡を指さした。
カチッ。
指示されるがまま石を押すと、紺野が手にした円鏡の中に、別な映像がくっきりと映し出された。
トワケが杖から放つ光と、大地が杖から放つ闇が、円を描きながら交わっている。
光と闇の力は、グルグルグルグルと、混ざり合う。
まるで白と黒のドラゴンが、追いかけ合うかのように。
どうやら大地は、光を生み出す力の使い方を、老紳士から教わっているようだ。
圧倒的な光の強さに闇が負け、シュッと音を立てながら消え去っていく。
トワケ老人は大地を信じ、親切心から彼の力のレベル上げを手伝おうとしている。
大地の力は黒に転じやすいらしい。
白と黒の力の両方を持っている大地が、その使い方を誤ってしまってはとても危ない。
『天枢』という力が黒に転じた場合が最も恐ろしい、とトワケ老人が彼に教えていた。
現実とかけ離れた情報なので、どう捉えればいいか、紺野にはわからない。
けれど今、道の神クナドの姿をしている紺野にとって、どういうわけかこの会話の内容が『体』の中では理解できているような気がする。
もし『黒天枢』という力を大地が使ってしまった場合、トワケの言う通り、誰にも彼を止める事が出来なくなってしまうのかも知れない。
────大丈夫なのだろうか?
大地が成長すればするほど危険な存在に変わってしまう事を、老人はかなり危惧しているようにも見える。
さらに、驚愕の内容も耳にする。
神が選んだ五人の生贄について。
自分はその一人にあたるのでは無いか、ということ。
だからこんな奇妙な場所に、迷い込んでしまったのだろうか。
結局のところクナドが狙っていたのは、自分に宿る『光る魂』だったのだと考えれば、今までの出来事の流れに筋が通るような気はする。
血を吸う行為と魂を食べる行為の結びつきは、良くわからないけれど。
大変物騒で、とても現実に起きている出来事とは思えない。
だが話を聞いたことにより、大地がしようとしている事は紺野にも理解できた。
自分達五人を助けるために、大地は動いてくれている。
彼は危険を承知で戦う事を決め、自身の力を成長させている。
そして……紺野が最も気にかかっている事は。
露木さくらも、生贄に選ばれたのではないかということだ。
クナドは彼女を知っていた。
狙われていたとしても不思議はない。
心臓がドクドクと、激しくて嫌な動きをし始める。
彼女は今、どこにいるのだろう?
自分よりもさらに、危険な目に遭っているのでは無いだろうか?
自身の不安や恐怖よりも先に、彼女の身を案ずる気持ちに押しつぶされそうになってしまう。
万が一、大地が黒い力の制御に失敗でもしたら、一体どうなってしまうのだろう。
考えたくは無いが、大地が黒龍側の神の力に、完全に負けた場合は?
クナドのような輩に大地が操られるという事態も、十分に考えられる。
そうなったら一体誰が、さくらや他の仲間を助けるのだろう。
「────まただ」
自分は、考え過ぎていけない。
慌てて首を振り、ため息をつく。
それを見ていた小さな女の子は、羽ばたきながら少しずつ近づいてきて、白い羽冠が嵌ったクナドの、つまり紺野の頭をよしよしと撫でた。
「…………ありがとう」
慰めてくれているのだろうか?
その小さな手の温もりに癒される。
彼女との出会いは、絶望に近い状況の中の、たった一つの希望のように思われた。
「大地には、何としてでも扉工房まで来て欲しいのに」
円鏡に向けて、紺野は声をかけた。
「大地!」
何度話しかけても、円鏡の中の大地はこちらに気づかない。
「こっちの声は聞こえないのか」
少女は羽ばたきながら、紺野に向かってある『念』を送った。
「…………君が言ってるの?」
少女は頷く。
彼女が紺野に訴えている。
それを言葉にして! と。
「わかったよ」
君の言う通り、やってみる。
「────天枢」
馴染み深い響き。
それもそのはず。
それは道の神クナドが最も得意とする『力』の名前なのだから。
────グンッ!!
あたりは扉工房ではなく、別な空間に切り替わって見えた。
ここは────空だ。
急降下していく感覚が襲う。
丸い時計の形が見えてくる。
城の屋根が視界に飛び込む。
中央にあるのは、大きな天守閣だ。
その周りを囲むようにして、六つの櫓が見える。
二時の方角には、扉ばかりが固まってできた、扉工房。
四時の方角には、色とりどりの珊瑚がグネグネと絡み合って動く、塔。
六時の方角には、ごつごつした巨大な岩が乱立している。
八時の方角には、乳白色の羽衣が幾重にも巻かれたような形の、城。
十時の方角には、巨大な螺旋がいくつか入り組んで作られた、迷路みたいな建物。
そして十二時の方角は、虹色に輝く泡でできた、雲のような塊。
紺野は八時の方角にある、美しい羽衣が巻かれたような、得体の知れない城が気になった。
もう一度黒樺の杖を振り、天枢を使って、羽衣の城だけ覗き見た。
城の中に、露木さくらがいた。
彼女は奇妙な羽衣にグルグルと巻かれ、近くにいる五歳くらいの少年に、何かを話しかけられていた。