桃色のドラゴンと最強神~ドラゴン・ノスタルジア ~∞クスコ∞

嘘だろ?

 ガタガタッ!

 ガタガタッ!

 桃色の扉はいきなり音を立てて、大きく左右に揺れ動いた。


 ────バンッ!!


 モクモクと煙が上がり、破裂音が地面を揺らす。

 扉は粉々に砕け散った。

 沸き起こった突風に煽られて後方へと吹き飛び、紺野とドゥーベは地面へと叩きつけられる。

「痛!」

 背中を地面に打ち付けられて尻もちをついた紺野は、よろよろと起き上がった。

 『黒天枢(クスドゥーベ)』の力が扉工房を支配したが、次第に弱くなってゆく。

 その時、ドゥーベがチョンチョンと紺野の肩を叩いて、扉があった場所を指さした。

 煙が徐々薄くなっていき、ドゥーベが指さした方角から男の声が聞こえる。

「あー……もう。…………まーた間違えちまった…………イテテッ!」

 紺野は仰天し、驚きの声を上げた。

「…………大地!」

 目の前に膝をついた男と目が合う。

「────!」

 大地が目を丸くして、自分の方を見つめている。

 やっと扉工房まで、大地が来て入れた。

 もう、誰にも会えないまま、自分は死ぬのかと思っていた。

 感謝が震えを伴って沸きあがり、涙が溢れそうになる。

 …………ありがとう、大地。

 だが。

 ────大地の様子がおかしい。

「クナド……テメェ!!」

 大地は(クナドの姿をした)紺野の胸ぐらを、勢い良くむんずと掴んだ。

「キサマのせいで、ひでぇ目に遭っちまったじゃねぇか!」

「は?」

「このアホンダラ! 女たちに会って謝れ! 百ぺん死んで来い!」

「うわっ!」

 大地は紺野の体をゆさゆさと揺すっている。

 自分だけではなく、友達4人の命も危なかった。

 現在進行形でその戦いは今も続いている…………かも知れない。

 そんな時に、張本人のクナドが涼しい顔をして目の前に現れたのだ、無理もない。

「違うんだ大地! 入れ替わったんだよ!」

「あぁ?」

 殴り掛かりそうな勢いのまま、大地は紺野の体に馬乗りになっている。

 あの狂暴な『力』を使われてしまったら、今度こそ命が危うい。

「僕はクナドじゃないんだよ!」

「どう見たってクナドじゃねぇか!」

「やめて大地! 僕だよ、紺野だ!」

「コンノ? ……テメェ嘘つくな!」

「本当なんだ!」

 大地は目を血走らせ、海神の杖を紺野に向けている。

 まさに力を発動させる寸前。

 ドゥーベがチョンチョン! と大地のほほを軽くつついた。

「わっ! 何だお前!」

「彼女は、ドゥーベだ」

天枢(ドゥーベ)?」

 ドゥーベはにっこりと微笑み、可愛らしい仕草で大地にお辞儀をした。

「…………」

 何なんだ。

 この……可愛い生き物は。

 いきなり脳内がお花畑になり、大地は完全にフリーズした。

 ドゥーベは楽しそうにクルクルと回り、「これこれっ!」とでも言うように、翼をはためかせながら両腕を振り上げ、大地に自己紹介をしてくれた。

 名前:ドゥーベ
 性別:女
 年齢:(人間年齢で)10歳くらい
 性格:優しくてお世話好き
 身長:うーん、5センチ?
 体重:??キログラム。聞かないで
 クラブ:なし
 特技:情報あつめが好き
 趣味:困っている誰かを助ける
 好きなもの:甘い水
 嫌いなもの:苦い水
 境遇:人を導き、守りたい妖精
 親密度:0(仲良くしてね!)
 恋のお悩みセンサー:※未発動※
 メリット:天枢(ドゥーベ)を使わなくてOK
 デメリット:仲良くなるとウザい

 注意事項:黒天枢(クスドゥーベ)を使う際は、六角形の石に入れておくこと

 それからそれから…………

 ドゥーベは紺野の周りをクルッと一回転した。

 名前:紺野 和真(こんの かずま)
 性別:男
 年齢:18歳
(病欠のため高校一年生を二度経験)
 性格:普段は冷静。心優しくて繊細。ヘタレで些細な事に驚く。若いが哲学者。思考をコントロールできる
 身長:165センチ
 体重:55キロ
 クラブ:生徒会書記。副級長
 特技:記憶力に優れている。試験の時は周りに人だかりができる
 趣味:天体観測
 好きな食べ物:うどん
 嫌いな食べ物:こってりしたもの
 境遇:道の神クナドと体が入れ替わり、とても困っている
 口癖:〇〇だろうか
 親密度:50
 恋のお悩みセンサー:発動済み。露木さくらに夢中
 メリット:意外と包容力がある性格なので、悩みを相談するとよい
 デメリット:すぐ自分の殻に閉じこもる

 あっ! と慌てて、ドゥーベは『恋のお悩みセンサー』の個所を隠そうとしたが、もう遅い。

 大地は全部、見てしまった。

 だが今は、それどころではない。

「お前、本当にコンノなのか? どうしてクナドになってんだ?」

 大地はようやく、目の前にいるクナドが紺野であることを認めた。

 クナド姿の紺野をもう一度凝視し、大地は頭が追いつかず、首を横に振っている。

「…………嘘だろ?」

 今までの経緯を、紺野は大地に説明した。
 
「……僕も、嘘だと思いたいよ」

 冷静になってよく見ると、切り裂かれた衣服から血が噴き出し、大地はボロボロの状態になっている。

「ひどい傷だね、大丈夫?」

「…………ああ、平気だ」

 傷自体はさほどでも無いが、体の中がまだ先ほどの戦いの余韻で、炎のように燃えているのを大地は感じた。

 そのためか、力の感覚も天璣(フェクダ)の感覚も、はっきりと思い出せない。

 紺野は大地の怪我を見て、何かしてあげられないかとあたりを見回した。

 けれど扉工房の中には、無数の扉と、机と椅子以外は何もない。

 ドゥーベは紺野に教えるように、大地の首にかかった銀色の鎖を指さした。

 さらに彼女は、クスコがくれた『みすまるの玉』をコンノに渡せ、と大地にジェスチャーで伝えている。

「………これを、コンノにやればいいのか?」

 大地は躊躇せず、ドゥーベに言われるがまま、みすまるを一つ取って紺野に渡した。

「これは?」

「力が湧く薬だ。それ食ってみろ」

「え…………でも、これ大事なものなんじゃないの?」

「ああ。けど、今使わないと後悔しそうな気がする。いいから」

 大地はそれ以上は、紺野に詳細を説明出来ずにいた。

 まさかその勾玉が、白龍の涙でできたものだとは言い出せない。

 みすまるの中には、クスコが持つ玉衡(アリオト)の力が込められている。

 これを食べれば、紺野がいい方向に少し、変われるかも知れない。

「…………」

 紺野も大地に言われるがまま、みすまるを口の中に入れた。

 水あめのような甘さが、口の中に広がっていく。

 紺野の体の中から、ふと力が沸き上がった。

「…………何、これ?!」

 ────体が熱い!

 紺野は手のひらを見つめた。

 灯がともるように、明々として見える。

 無性に生き物に触れたくなり、衝動のまま紺野は、大地の手に触れた。

「おわっ! いきなり何すんだ!」

 その時。

 強大で底知れぬ力が大地の体を包み込み、九頭竜によってつけられた傷がみるみるうちに治っていく。

「おお…………お前、すげぇ! ありがとな、コンノ」

 紺野はびっくりして、首を横に振った。

「こっちこそ…………」

 信じられない事ばかりだ。

 大地の傷が治ってしまった。

「こっちこそ、助けに来てくれてありがとう。大地」

 大地は、久しぶりに笑った。

「お前が生きてて良かった」

 目の前にいるのがクナドなので、どうも妙な気分になってしまうが。

「しかしお前、どっからどう見ても…………クナドだな」

「うん。どうすればいいのかな」

「見つけようぜ。戻れる方法」

 …………まてよ。

 急に、嫌な予感がよぎった。

 さっきから、妙に気持ちをざわつかせる香りが、嗅覚を刺激している。

 大地はこの香りを覚えていた。

 クナドの血の匂いである。

 さっさとこの扉工房から出なければ、この場所にいる事自体、危ないのではないか?

 もし、あの蛇女達にここをかぎつけられたら、真っ先に狙われるのは、クナドの体と奴の血を持ったコンノだ。

「コンノ。お前、戦えるか?」

「え? 誰と?」

「九つの蛇頭を持った龍」

「…………!!!」


 紺野は、ズサーーーーーッ!!!!


 …………と後ずさった。


「むむむむむむむむむ無理無理無理無理無理!」

 大地は腕組みをしながら頷いた。

「だろうな。お前ヘタレだもんな」

 姫毬達は今、どうしているだろう。

 とても心配だ。

 天守閣へ続く穴のような空間は、完全に消失している。

 その時、邪心を殺す『真実の輪(ベリタスワール)』が、紺野の頭上で白く光り輝いた。

 黒い羽冠は呪いだが、白い羽冠は真実を映し出す。

『彼なら戦える』

 大地には、冠がそう言っているように見えた。

 ドゥーベもこくこくと頷いている。

「いや絶対に無理だって!」

 その時、一番奥にある黒い扉の中から、ガタガタッ! と、物音が聞こえ始めた。


 ────ヤバいんじゃないか?


 このままでは…………また。


 ────バンッ!!!


 黒の扉が、勢いよく開け放たれた。


 吐き気がする臭いが、扉工房の中全体に充満してゆく。


「あー…………まーた来やがった」


 大地は眩暈がしそうになった。


 あれだけ苦戦して振り切ったはずの九頭竜が、目の前でうねうねとのたうち回りながら現れ、扉工房の中へと侵入してきたのである。
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