水に溺れた君と夏
「…伊月。俺さ、はやく泳ぎたい。」

…水泳バカみたいな台詞だよ。
分かるけど

「…治るまでは正直何も出来ない。
大会までそんなに期間もない。だから
絶対安静にしてね。治るまでが問題じゃない。治った後が問題だから。」

「うん、分かってる。
…俺、今は別に優勝出来なくてもいい。そりゃもちろん出来たら嬉しいけどさ。
それでも一番は今は、泳げたら、泳ぐことを楽しめたらいいなって思ってる。」

「…そっか。」

今の陽都ならきっと焦ることはない。
治るまで時間はかかるけど、
もしかしたら、陽都なら優勝も出来るかもしれない。

梓月が出来たように、出来ると信じたい。

梓月が大丈夫って言う時は
絶対大丈夫だから。大丈夫だよね。

そう思いながら、ネックレスを握りしめた。

「とりあえず、今日は帰るね。
ありがとう。安静にしとくことと、捻挫が完治したらリハビリして、一気に出来る分だけ追い込むから。
はやく泳ぎたいなら、安静にしててね?」

念には念を。
陽都なら無茶しかねない。そんな気がする。

「おう」

…苦笑いしながら言われても君のことだからね?

「あのさ、悪いんだけど
授業のノート見せてくれないかな?」

「あぁ、いいよ。放課後渡しにいく。」

「ん、さんきゅーな。インターホン押してくれればいいから。」

「わかった。じゃあね」

「ん、また明日。」
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