水に溺れた君と夏
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「ただいま。」

「いーちゃん!お帰り!」

あのあといつも通りに授業を受けて、
瑠璃と話して帰った。

それなのに、頭の片隅に水がある。
だめだなぁ…と思いつつ、海外に留学している双子の弟に電話をかける。

宮川 梓月《みやかわ しづき》
双子の弟で水泳のためにオーストラリアに留学した。
今じゃ世界的に有名な将来有望な天才的スイマーである。あの吉良陽都と並ぶ、いやもしかしたらそれ以上かもしれない。

中学までは、最強の名を一緒に持ってた大切な弟。
そう思うと誇らしいし嬉しかった。
一緒に夢を持ってた弟との約束。
お揃いのネックレス。

年に3回ほどしか帰ってこない梓月と電話を週に1回するのは楽しみだ。

梓月がいる場所との時差は一時間。
この時間ならかけても大丈夫だろう。

「もしもし?」

「もしもし、梓月?今大丈夫だった?」

「うん、全然大丈夫だよ。
伊月は元気だった?」

「うん!元気だよ。」

そうやって他愛のない話をする。
いつも2時間は電話してしまう。

「それじゃあまたね、梓月」

「うん、またね。
伊月、俺が舞台につれてってあげるから。」

あぁ、梓月には気付かれてたんだな。
水泳が、ずっと心に残って離れないこと。

「うん、ありがとう。無理しないでね。
おやすみ、梓月」

「うん、おやすみ」

こういうとき双子って凄いなぁなんて思ったりする。
どれだけ離れてても梓月は気付いてる。
それと同様、私も気付く。

梓月のお陰で心が少し、軽くなった。
大丈夫。梓月の水泳を見れるだけで、嬉しいよ。
だから、ありがとう。

その日夜ご飯を食べて眠りについた。
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