宇佐美くんの口封じ
宇佐美くんのお願いごと
悪い夢を見ているのだと信じたかった。
背中にひんやりと固い感触。
もうこれ以上、私に逃げ場はなかった。
近づいてくる顔は、遠くで眺めているよりもずっと綺麗。
うっかり見とれてしまいそうになる気持ちを抑え、私は必死に目を逸らす。
「ね、雨宮(あまみや)せんぱい」
「…っな、何も見ていません…私は何も見ていないのです…」
「だからなんなんですかその嘘は」
「気のせいですきっとっ、」
「こっそり見てるなんて良い趣味してますね?大人そうな顔してさ」
「…っ、だ、だってまさか、」
───まさか、宇佐美(うさみ)くんがいるなんて思わなかったから。
< 1 / 234 >