宇佐美くんの口封じ
その時だった。
急にかけられた声に振り向けば、そこには宇佐美くんの姿があった。
膝を隠していた手を優しく避けて、「…赤くなってんじゃん」と呟く。
「う、宇佐美!俺、ぶつかっちゃって…」
「倉野(くらの)、お前この荷物先輩と一緒にクラスまで運んで。俺、せんぱいのこと保健室連れてく」
「…え、う、宇佐美くん?」
突然現れた宇佐美くんに戸惑いを隠せない私を差し置いて、泣きそうになっていた男の子 改め倉野くんは転がった美術道具を拾いながら今度はリコに謝っていた。
リコも、あまりにも必死に謝る倉野くんを不憫に思ったのか、「いいから、早く片付けな」なんて言っている。
「…雅のことよろしく」
「…りょーかいです」
「かばん、ホームルーム終わったら届けに行くから」
リコはそう言って私を宇佐美くんに預けると、荷物を抱え、倉野くんを連れて歩いて行ってしまった。