宇佐美くんの口封じ
「…それ消せよ、」
「っじゃあその女と関わるのもうやめてよっ!」
「…いいから消せっつってんだろ!」
宇佐美くんの初めて聞く怒った声に、後ろで聞いていた私もビクッと肩を震わせた。
私には、変わらず涙を流し続ける麻央さんのことも、怒鳴る宇佐美くんのことも止めることができない。
もうこんな手を使ってでもつなぎ留めていたいくらい、彼女は宇佐美くんのことが好きなんだ。それが痛いくらいに伝わってきて、同情では収まらないほどの苦しみが私を襲う。
「やだよ、依里…っ戻ってきてよ、」
「…ふざけんな、」
私なんかに構う宇佐美くんがわからなかった。
私なんかで満たされるようになった宇佐美くんが不思議だった。
私の感じたもやもやは、彼に対する疑問から生まれたものだったのかもしれない。
寂しいと思ったのも、一緒にいるのが楽しかったのも、まんまと宇佐美くんの“普通”に流されて、そんな生活に慣れたせいだったのかもしれない。
…きっとそう。
そうじゃなくても、そうだったことにしないといけない。