宇佐美くんの口封じ
反対方向から歩いてくる男の子の姿を捉え、私の心臓はぎゅっと締め付けられる。
「…あー、最悪だね」
「…いいよ。もう関係ない」
リコには何も言っていないけれど彼女は何かを察していて、「目、合わせなきゃいいよ」と小さな声で言ってくれた。
その言葉に頷いて、なるべく自然に、視界から彼の姿を外す。
私の“普通”の日常に、彼はもう映すことはできないのだ。
「──あ!リコさん!」
けれど、そんな私の小さな努力は呆気なく散ってしまった。
彼の隣を歩いていた男の子──倉野くんは、リコの姿を見つけて嬉しそうに声を上げたのだった。
げっ…と私よりも分かりやすく顔に出したリコ。
前回ここで私にぶつかり、リコと一緒に私のクラスまで荷物を運んだあの日以来、リコはどうも倉野くんに好かれてしまったらしいのだ。
「倉野…あんた空気読みなさいよ…」
「え?なんすか?つか今日も雑用ですか?手伝いましょうか!」
「いいからマジであんた空気読みな?」
うんざりしたようにそういうリコ。
私は、どうしても視界に入ってしまう彼の存在を意識してしまい、気が気ではなかった。