宇佐美くんの口封じ






反対方向から歩いてくる男の子の姿を捉え、私の心臓はぎゅっと締め付けられる。



「…あー、最悪だね」

「…いいよ。もう関係ない」




リコには何も言っていないけれど彼女は何かを察していて、「目、合わせなきゃいいよ」と小さな声で言ってくれた。

その言葉に頷いて、なるべく自然に、視界から彼の姿を外す。



私の“普通”の日常に、彼はもう映すことはできないのだ。





「──あ!リコさん!」



けれど、そんな私の小さな努力は呆気なく散ってしまった。


彼の隣を歩いていた男の子──倉野くんは、リコの姿を見つけて嬉しそうに声を上げたのだった。


げっ…と私よりも分かりやすく顔に出したリコ。

前回ここで私にぶつかり、リコと一緒に私のクラスまで荷物を運んだあの日以来、リコはどうも倉野くんに好かれてしまったらしいのだ。




「倉野…あんた空気読みなさいよ…」

「え?なんすか?つか今日も雑用ですか?手伝いましょうか!」

「いいからマジであんた空気読みな?」




うんざりしたようにそういうリコ。
私は、どうしても視界に入ってしまう彼の存在を意識してしまい、気が気ではなかった。



< 116 / 234 >

この作品をシェア

pagetop