宇佐美くんの口封じ
「…せんぱい、こんにちは」
頑なに目を合わせないようにしていた私にそんな声が届く。
話しかけられては無視するわけにもいかない。
…そもそも、挨拶をするのは“普通”であって、おかしいのは私の態度なんだ。
「…こんにちは。どこか行くの?」
「俺らも雑用です」
「…そ、そっか」
普通に、普通に。
私たちの間には何もなかった。
これはただの日常会話。
倉野くんにも宇佐美くんにも違和感を感じさせてはいけないし、リコにこれ以上気を遣わせたくもなかった。
「……」
「……」
「……」
「…せんぱい、あの、」
「…っな、なに?」
沈黙を破ったのは宇佐美くんだった。
うつむいていた顔を上げ、そこでようやく彼と目が合う。
「…今日。放課後、時間ありますか?」
「…え?」
「少しだけでいいんで俺に時間くれませんか」