宇佐美くんの口封じ
どこかからそんな声が聞こえてきて、私はピタリと足を止めた。
宇佐美くん…とか何とか聞こえたのは聞き間違いだろうか。キスしてとか聞こえたんだけど。
私はそっと足音を消して、声のする方に耳を傾ける。
どうやらそのやり取りは空き教室の方で行われているらしい。
宇佐美くんってそんなに遊び人なんだ。
彼女でもない子に平気でキスできちゃうような、軽い人だったんだ。
噂が大きく広まらないのは毎回『口封じ』してるからなのかな。
だとしたら私、騙されてるのかもしれないなぁ…。
そんなことを考えていると、ガラっと音を立てて空き教室のドアが開いた。咄嗟に廊下の柱の陰に隠れる。
ちらりと目を向ければ、頬を赤くして嬉しそうにする女の子が階段に向かって歩いていくところだった。
……キス、してもらったんだろうな。
めちゃくちゃ嬉しそうにしてたもんなぁ。