宇佐美くんの口封じ




もうすっかり馴染んでしまった声に振り向くと、麻央ちゃんがニコニコしながら「雨宮せんぱいこんにちはっ」と軽く手を挙げた。




「前行きましょ?ねっ?」

「ちょ、麻央ちゃん、」

「ほらぁ、早く!始まっちゃいますよぉ!」



麻央ちゃんに腕を引っ張られ、ステージの目の前まで連れていかれる。
リコはそんな麻央ちゃんと私の様子を面白がって、何も言わず後に続いた。



急に入って来た私たちをジロジロ見て、あちこちで宇佐美くんのファンの女の子たちが噂する声が聴こえる。



「さっきステージでギターしてた人じゃない?」
「宇佐美くんのお気に入りだよね」
「宇佐美くん見るためにど真ん中行ったってこと?やばくない?」




などなどなど。



宇佐美くんを見に来たのは確かだけど真ん中に連れてきたのは麻央ちゃんなんですよ……。

別にいいけどね…気にしないけどね…、と心の中で思う。




けれどそんな彼女たちに麻央ちゃんは、


「はぁ?うるさいんだけど」
「依里だってブスに見られるよりせんぱいにど真ん中で見てもらいたいに決まってるしぃ」



と馬鹿にしたように吐いていたし、
そんな彼女に負けじとリコも、



「ほんとよねぇ、雅の可愛さ舐めないで欲しいわ」
「てかあたしら先輩なんですけど?」



などと言っていて、相変わらずこの2人は強いなと嫌でも感じさせられた。


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