宇佐美くんの口封じ




「私らも帰ろっかー」

「ですね」




玲と顔を見合わせ苦笑いをしたのち、私たちは半人分の距離を開けて歩きだす。



今日の練習はどうだったとか、あのバンドのあの曲がいいよねとか、遥馬はどうして課題を出さないんだろうとか。


そんな他愛もない会話をしながら歩く帰り道。





玲とは比較的趣味が合う。好きなバンドの系統も同じだし、食べ物の好き嫌いも基本的に似ている。

私も玲も、甘いものがあまり得意では無いのだ。





「あ、玲。私ちょっと本屋に寄りたいんだった。だから今日は駅まで一緒。ごめんね?」





ふと、欲しかった本が今日発売日だったことを思い出す。
玲に言うと、彼は「大丈夫ですよ」と言って笑った。



「今日兄ちゃんが戻ってきてるらしくて、早く帰って来いって親に言われてるので」

「ん、全然!お兄さん、社会人だっけ」

「はい。連休取れたから帰るって昨日連絡あって」




玲のお兄さんかぁ。

会ったことないけど、きっと玲に似てかっこいいんだろうな。隣を歩く彼の顔をチラリと見て、そんなことを思う。




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