宇佐美くんの口封じ
「もー。コーラ零れちゃった…せっかくのデート服、汚しちゃってごめんね?」
絶対に当たらない距離を歩いたはずなのに、女の子の腕にぶつかってしまったようで、彼女の持っていたコーラの蓋が取れ、私の服にかかってしまった。
「ごめんねぇ?」と反省の感じられない声で謝る彼女。目を合わせると、数分前に宇佐美くんに向けていた笑顔はどこにいったのか、ぎろりと睨みつけられてしまった。
「…は?せんぱいなにしてんの?」
「やだぁ、依里。彼女さんおっちょこちょいなんだね?つまづいてあたしにぶつかってきたんだよぉ?」
「え、いや違…」
「やだぁ、嘘つかないで?」
宇佐美くんからは彼女の表情は見えない。
急にわざとらしくぶつかってきたのは明らかに彼女のほうなのに、どうしてそんな嘘をつくのだろう。
「違う」と言おうとしたけれど、その時の彼女の顔があまりにも般若のようで怖かったのだ。
「ねっ」と言った彼女が、私の白い服にハンカチを当てる──ふりをして、私にだけ聞こえる声のトーンで言った。
「あんたなんかどうせ依里の暇つぶしなんだから。あんまり調子に乗らないでよね?」
「っ、」