宇佐美くんの口封じ




低くて重い、そんな声で彼女は言う。

ああ、この人、宇佐美くんのこと好きなんだ…って、直感で思った。




「あっ、あたしたち映画始まっちゃうみたいだから悪いけどもう行くね?彼女さん、ちゃんと前見て歩くんだよー?」




彼女はそう言って立ち上がると、「依里、また遊ぼうね?」と言って、友達を連れて行ってしまった。

さっきの男の子が言っていた『遊ぼう』とはきっと違う意味のそれ。


ズキン。

…まただ。また、もやもやが重なっていく。




彼女は、私みたいな平凡女子が宇佐美くんの隣にいたことに腹が立ったのだろうか。



―――「あんたなんかどうせ暇つぶしなんだから」





彼女に言われた言葉が繰り返される。

そんなことわかってる。私だって、からかわれているだけだって自覚しているから。

いつ飽きられるかわかんないし、振り回されるのも正直困ることはたくさんあるけど。



…それでも。






「せんぱい、手洗いに行こう。服も新しいの適当にそろえよ」

「え?いや、いいよこのくらい…」

「だめ、白い服だし、べたべたしたままじゃ気持ち悪いでしょ」

「うっ…」

「…そんなべたべたした手とは繋ぎたくない」

「っべ、別に繋いでほしくなんてないもん!」

「はいはい。ほら、早く行くよ」









────宇佐美くんのこの優しさを、暇つぶしだとは思いたくなかったんだ。



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