宇佐美くんの口封じ





「…宇佐美くん…?」




ベンチに横になり目を閉じていたのは宇佐美くんだった。




普通なら部活をしている時間なんだけどな。

そう思いながら小さく彼の名前を呼ぶ。
しかし、彼はすっかり眠っているようでピクリとも反応しなかった。



私はベンチのすぐそばにしゃがみ込んだ。




…綺麗な寝顔だな…。


彼の寝顔を眺めながら、この間のことを思いだす。




優しくなでられた頭。
優しく繋がれた手。


あれから何日かたった今でも、あの日の温もりが忘れられなかった。



宇佐美くんが私のことをどう思っているのかわからない。
感じたことのないもやもやはなんなんだろう。


そんなことを考えているうちに、私は無意識で眠っている彼の髪にそっと触れてしまった。
さらさらの髪に手を滑らせる。





宇佐美くんは、いつ私に飽きてしまうのだろう。

いつまで私は、“仲の良い先輩”として彼と一緒にいられるのだろう。

< 84 / 234 >

この作品をシェア

pagetop