宇佐美くんの口封じ
私の言葉ごと呑み込むように塞がれた唇。
唇を離した宇佐美くんが吐き出すように言う。
彼の瞳に捕らわれたまま動けない。
宇佐美くんの瞳になぜか────悲しみの色が見えたような気がした。
「…せんぱい、俺のことなんだと思ってんの?」
荒々しい口調で彼が言う。
言葉に詰まって、私は何も言えなかった。
「…せんぱいはバカなんですか、」
「っ、」
「そうやって勝手に線引きしないでって、前も言いましたよね」
「宇佐美、くん、」
「…そんなこと言われたら俺だって悲しくなりますよ」
私の肩にそっとおでこを乗せた宇佐美くんが小さく呟く。
悲しそうな声に、ズキン…と胸が痛んだ。
肩に寄りかかったままの彼の背中に、私は手をまわすことができなかった。
宇佐美くんを傷つけてしまった。
感情のままに放ってしまった言葉。
罪悪感と後悔が一気に押し寄せる。
「…う、さ、」
「…俺帰ります。せんぱいも気を付けて帰ってくださいね」
今の私には、遠のいていく彼の背中を眺めることしかできなかった。