終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「で?生放送でホントに付き合ってるって言ったんですか?」
「言ってないし、ただの彼女の思い込み」
移動の車の中、次の仕事の資料に目を通す。
「俺の好きなタイプを言ったんだよ。いつものやつ。それを自分のことだと勘違いしたみたい。確かにちょっと似てるから」
「あー、あれ。黒髪ロング、ちょっと幼い顔立ち、美人系より可愛い系、ってやつ?」
「それ。別に俺のタイプでもなんでもないやつ。まあ嫌いじゃないけどそれがどストライクってわけじゃないやつ。テレビ用のやつ」
おまけに司会者に「今恋してるんでしょ?」とか言われて適当にあしらっただけなのに照れてるだけだと解釈したらしい。
とんだ勘違い女だった。
「あの子、今後俺と共演NGにしてくるかもな」
「いや、それはないと思いますよ。事務所的にも優位なのはこっちですし今回の共演で知名度を上げられた恩恵もあるから逆にまた共演してもう一声欲しいぐらいじゃないですか?それにヤり逃げされた、なんて彼女の性格からしてマネージャーに言えないでしょう」
「おい、ヤり逃げじゃないぞ。同意の上だしちゃんと挨拶して帰った」
「あのね律兎さん。セクハラと同じでね、相手がヤり逃げされたと感じたらヤり逃げなんですよ。これに懲りて大人しくしててください。それか誰か1人に決めたらどうですか」
「誰に?」
「俺に聞かないで。好きな子とかいないんですか?全然?まったく?」
好きな子ねえ。
「事務所的に恋愛禁止じゃないんですから。公表するしないは社長次第ですけどそろそろちゃんとした彼女作りましょう」
「彼女のいないチュー多に言われてもな」
「あなたが彼女作って落ち着いてくれたら俺にも作る余裕ができるんですけどね」
笑いながら怒っているチュー多にハイハイ、と言って窓の外を眺める。
彼女を作りたくないわけじゃない。
束縛が嫌なわけじゃない。
俺だって何が嫌なのか、何が不満なのか分からない。
この子と付き合いたいって子に出会ってないだけ。
この子を彼女にしたいって子に出会えてないだけ。
ピンとこないだけなんだよ。