終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「白川さん、どういうつもりでーーー」
「静かに、まだ外にいるかもしれない」
彼女の口を手で覆いドアスコープを覗く。
まだそこにいる。
鍵をかけて手を離した。
「すみません、苦しかったですか?」
「いえ」
「あと、ごめんなさい。勝手に部屋に入っちゃって」
「…もういいです。散らかってますけど中どうぞ」
明らかに怒ってる。
当たり前だけど。
入ってすぐの狭いキッチンの奥、これまた狭い畳の部屋に座った。
散らかってるって言ってたけど物があまりなくとても質素だ。
というか、なさすぎないか?
ここに住んでいるとは到底思えないほど家具も物もない。
妙な違和感を感じる。
「あんまりじろじろ見ないでもらえますか?」
「すみません」
コーヒーを俺の前に置くと少し離れたとこに座った。
「さっきの人、知り合いみたいでしたけどどういう関係なんですか?」
話したくないのか、俺に話すのが嫌なのか、しばらく黙っていた彼女はやがて話し始めた。
「大学の時の同級生で、『付き合ってくれ』ってずっとしつこいんです」
「付き合ってたわけじゃないんですか?」
「まさか。そういうの興味ないので」
興味ない?もしかして男と付き合ったことないのか?
…この見た目で?
「どれぐらいになるんですか?その、付きまとわれてから」
「さあ…1年ぐらいは経ってる気がします」
「1年!?それってもう警察沙汰じゃないんですか」
「電話やメールがしつこいのとたまにこうやって待ち伏せされるぐらいで危害を加えられたこともないし身の危険は感じないので、この程度じゃ警察に相談したってどうしようもないです」
心底めんどくさそうな態度。
「物心ついた時からこうなので慣れてるんです。ただ周りが大袈裟に心配するだけ。会社の人もそう、白川さんもそうです」
遠回しにもう放っておいてくれと言われてる気がするが、そんなことはどうでもいい。
「でも疲れません?いくら危害を加えられたことがないって言っても相手は男だし、いざとなったら榎本さんの力じゃ勝てないですよね。いつか何かされるんじゃないかって精神的負担も大きいと思いますけど」
「それも慣れてますから。最低限の防犯グッズは持ってるし身軽でいたいので物もあまり持ちません」
それは、厄介な男に好かれた時すぐに引っ越しができるようにと言うことなのだろうか。
部屋の違和感に納得した。
本来あってもいいはずの机やテレビ、冷蔵庫、電子レンジ等の家具は一切ない。
おそらく洗濯機なんかも置いてないんだろう。
今の時代食事はどこでも調達できるし洗濯はコインランドリーで事足りる。