終わり良ければ全て良し、けど過程も大事



相変わらずダサい眼鏡かけてるけど今日も抜群に可愛い。

ニコニコ顔の俺を睨み不機嫌そうだ。


「そういえば名前…」

「え?何?“ゆい”でしょ?違ったっけ?」

「そうじゃなくて、なんで急に呼び捨てなんですか。口調も変わってるし」

「だって付き合うんだし“榎本さん”っておかしいでしょ。仕事相手にはそりゃ敬語だし」

「私まだ契約するなんて一言も言ってませんけど」


え。


思わず固まった。


「え、え…え?本気?」

「確認したいことがあるんです。契約はそれを踏まえて考えます」


軽く衝撃だった。



チュー多に案内された会議室で向かい合わせに座る。



「で、確認したいことって何かな」

手を組み食い気味に尋ねる。


反して少し俺から遠ざかるように体を引いた彼女はゆっくり口を開いた。



「…契約の、メリットについてなんですけど。とても不安定な気がするんです」

「不安定?」

「私のメリットも白川さんのメリットも、ふわふわしてるし欠点もあるし」

「欠点なんてある?お互いにすごくいいメリットだと思うけど」


自信満々な俺に呆れた顔をする。


「まず、私のメリットの1つの『白川さんの存在を彼氏として利用する』ってやつですけど…白川さんが彼氏だと逆にとても困ります」

「え、なんで?」

「だって、白川さんは有名人なんですよ?もし誰かに『彼氏がいる証拠見せて』って言われて『この人が彼氏です』って白川さんを紹介したとしたらいろいろと面倒ですよね。スキャンダルになれば白川さんにも迷惑だし世間にバレれば私だって注目されます。私目立ちたくないんです」



確かに、そう言われればそうだ。


「2つ目の『定住できる環境』ですけど、もし白川さんが私に飽きたりちゃんと恋人ができたとしたらどうするんですか?私は追い出されるんでしょうか。そうなったら困ります」

「それは別にその時に考えればいいことなんじゃない?」

「じゃあいつか出ていくことを考えながら生活しなくちゃいけないんですか?それなら今と変わりません」

「でも、俺が用意する部屋はセキュリティがしっかりしてるとこだよ。今のオンボロアパートよりは安全でしょ。それに賃貸なんていつ出ていくか分からない前提でみんな住んでるんだから、そこは反論したい」


俺の言葉に唇をムッとヘの字にする。





「…じゃあ白川さんのメリットは?無理強いはしないと言ってましたけど私が拒んだら何もしないってことですよね。それだと私に比べて白川さん側のメリットが弱すぎませんか。不公平だと思います」


彼女の言葉に思わず目を丸くした。



自分に都合のいいことだけ受け入れて俺を利用すればいいのに平等にこだわるなんて。

目を細める俺にキョトンと首をかしげる。



「俺言わなかった?一緒にいるだけでも満足だって。結のその可愛い顔が毎日無条件で見られる権利は俺にとって最高のメリットだけど?」

「…私の顔が見たいだけなら写真でもとって待ち受けにしたらどうですか。1枚ぐらいならいいですけど」


うーん、厳しい。



「何が不満?仮に俺を彼氏として利用するってやつがメリットとして効果がなくても安全な場所で暮らせるのは嬉しいでしょ?それに見合うメリットが俺にないのが嫌?フェアじゃない?」


少し考えた後小さくうなずく。



困ったな、お金に余裕があるようには見えないし…というか金があったら最初からちゃんとしたとこで暮らしてるはずだ。


他に彼女からもらえそうなものなんて。


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