終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「あるわよ、白川律兎にとっての最大のメリット」
突然聞こえてきた声に俺も彼女も顔を向ける。
腕を組み、嬉しそうにドアのとこに立っていたのは社長だった。
後ろでチュー多がひょっこり顔を覗かせている。
「社長、盗み聞きですか?」
「律兎こそ、契約相手に会わせなさいってさっき言ったばかりでしょ。来てるなら私のとこに連れてきなさいよ」
「…まだ契約すると決まったわけじゃ」
「だから、その後押しをしてあげる」
そう言うと彼女の側に歩み寄りしゃがみこんだ。
「初めまして。橘プロダクション社長の橘香奈です。白川律兎の保護者でもあります」
「あ…初めまして。榎本結です」
「結ちゃんね。うちの律兎の突拍子もない提案に付き合わせてごめんなさい。その上で私からも提案があるの。まず、結ちゃんにとって芸能人・白川律兎はどういうイメージ?」
なんでそんなこと聞くんだ?
黙って2人を眺める俺をチラッと見た彼女はゆっくり口を開いた。
「爽やかで、社交的な正統派イケメン…」
「そうね。じゃあ実際に接したイメージは?思った通りに言ってみて」
「…チャラい」
「え゛」
思わず声を漏らした俺を社長が睨んだ。
「そう。それに私もマネージャーもとても困ってるの。事務所は白川律兎を爽やかで清潔なまるで清涼飲料水のようなイメージで売りたいのに実際は毎週週刊誌に狙われる女好きのチャランポランなレディキラーカクテルのような男なの」
そこまで言う?
「だから、結ちゃんには律兎の女遊びを止める手助けをして欲しいの。偽物だったとしても結ちゃんという彼女ができれば律兎も落ち着くはずよ」
微笑んだ社長はさらに続けた。
「これは白川律兎と榎本結さんとの契約じゃなく、橘プロダクションと榎本結さんとの契約よ」
は?
「何言ってんの社長。さっきはあんなに反対してたじゃん」
「気が変わったの。結ちゃんならあんたの女遊びもなくなりそうだし、何より気に入ったわ」
あー、やっぱり…。
「ねぇ、結ちゃん。ラピスラズリでデザイナーしてるそうだけどモデルになる気はない?あなたならきっとすぐに売れっ子になれるわよ」
「いいえ、結構です」
即答に思わず吹き出してしまった。
「あの、白川さんの女遊びを止める手助けって…具体的には何をすればいいんですか」
「安心して、さっき律兎も言ってた通り無理強いは絶対にさせない。そうね、契約書をきちんと作りましょう。例えば…ハグは絶対拒否しちゃいけないけどエッチは任意の上でする、とか」
彼女の表情が少し強張った。
「…ごめんなさい、やっぱり嫌?体を売るようなマネできない?」
「いえ…大丈夫です」
目を閉じて小さく深呼吸をした彼女は一言、「契約します」と口にした。