終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「律兎くん」
天井を見上げる俺を覗き込む人に慌てて姿勢を正した。
「雪さん」
同じ事務所の先輩でSevenの看板モデルの山村雪さん。
長い綺麗な黒髪がさらっと揺れる。
「お疲れ。どうしたの?今日ずっとボーッとしてたけど」
隣に座る雪さんに何も返答できずヘラっと苦笑いを浮かべた。
「香奈さんが心配…じゃないな、気味悪がってたよ?今日朝一から橘プロのイベントの打ち合わせだったのにすっぽかして、結局出社したの夕方だったでしょ?これでもかって説教したのに珍しく言い訳せず『すみませんでした』しか言わなかったって」
まじか。
自分のことなのに全然覚えてない。
結のことが相当堪えてることに驚いた。
目を見開いて視線を泳がせていると俺の顔を覗き込む雪さんがとんでもないことを口にした。
「例の契約したって子と何かあったの?」
「え」
「朝、根澄くんがぼやいてたから。どうせあの子が絡んでるんだろうって。あ、安心して?その子のことはタレントの中じゃ私しか知らないから」
「…どこまで知ってるんですか?」
「えっと…律兎くんの女遊びをやめさせるためにラピスラズリの新人と契約して恋人ごっこさせてるってことと」
すげぇ語弊、いや…事実か。
「ものすごい美少女ってことかな。スカウトしたけど秒で断られたって嘆いてた」
クスクス笑う雪さんに楽しそうに話す社長の顔が浮かんだ俺はため息をついた。
「私も見てみたいな。あの律兎くんが見初めた子がどんなに可愛い子なのか。撮影の時来たりしないかな?」
「どうですかね。デザイナーって言ってたからよっぽどじゃないと撮影には立ち会わないんじゃないですか」
「そっか、残念」