終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
気付かなくてごめん





気付いたら自分の部屋の前にいた。

雪さんと話した後たぶんチュー多に送ってもらったんだと思うけどまったく記憶がない。

情けなくなり大きなため息をつきながら鍵を開けて部屋に入ろうとすると隣の部屋の扉がゆっくり開いた。


思わず扉が開くのをじっと眺めながら部屋から出てくる人を待ってしまった。

半分ほど扉が開いたとこで出てきた結と目が合った。


突然のことで一瞬言葉を失ったが「た、ただいま」と声をふり絞る。

対する結はあまり反応がなく「おかえりなさい」とボソッと喋ると部屋を出て鍵を閉めた。

お風呂上りなのか少し離れていても石鹸の匂いが風にのって香ってくる。


「…え、待ってどっか行くの?こんな時間に?」


ハッとしてスマホを見るともう23時を回っていた。


「ちょっとそこの自販機に。すぐですから大丈夫です」

「いや、そこのって少し歩くよね。心配だからついていく」


開けた部屋の鍵をもう1度閉めなおす。


大丈夫なんですけど…と怪訝そうな顔をする結にまた胸がぎゅっと締め付けられる。


「心配だから。付き添わせて」


今朝のような強引にはなれない。

懇願するように弱弱しい俺に結はただ小さく頷いた。










春とはいえまだ夜は冷える。

ポッケに手を入れて肩をすくませながら結の後をついて歩いた。


向かい風のせいでさっきより結の匂いが風にのってくる。

あんな風に拒まれても抱きしめたい衝動に駆られてしょうがない。


でも、この先どうアクションしたらいいか全くわからない。


キスもセックスも「してもいいですか」って始めるのは学生かよっぽどの恋愛初心者だろう。

そういう雰囲気になったらか、もしくは意図してそういう雰囲気にもっていって言葉なんて交わさず始めるもの。


そうだったから…今までがずっとそうだったからどう切り替えたらいいか分からない。


今この場で抱きしめて、キスをして、見つめて、目がOKと言っていたら部屋に帰ってことに運ぶだけ。

普通の相手ならそれでいいのに結だとそれができない。


そもそもキスができない時点で何もかもの計算が狂う。


難しい。


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