終わり良ければ全て良し、けど過程も大事


飲むのは部屋に帰ってからと思い、それまでカイロ代わりに使おうと両手で缶を包み込む。


「帰ろうか。湯冷めするよ」

今度は俺が先頭に歩き出そうとするとクイッと服を引っ張られた。


振り返るとバツが悪そうな顔で何か言いたそうにしている。


「結?」

体を向けると服から手を放し、ペットボトルを両手で握りしめた。


「夕方はすみませんでした」

「え…」

「あんな風に嫌がってしまって。一応、あーいうことをするのも契約の内だから白川さんは悪くないのに」

結が気にしてくれていたのが嬉しい。


けど、それ以上にやっぱり嫌だったのかという事実が落ち込んでた俺の心に追い打ちをかけてくる。


「いいよ。嫌ならNGって言っていい約束だし」


いつもの俺なら「いつならOKになる?」って続けるとこだけどそんな勇気今はない。


「もう、たぶん、大丈夫なので」

「帰ろうか。なんか寒くなってきた」


必死に笑顔を作って歩き出そうとしてピタっと立ち止まる。

「今なんて言った?」



意識が飛ぶだけでなく耳まで悪くなったのかと自分を疑う。

結の言葉が自分の都合のいい言葉に変換された気さえした。


困ったような顔をする結はもう1度同じ言葉を口にする。


「もう、たぶん、大丈夫なので」

「…自分が何言ってるか分かってる?」


俺も何を言っているんだ。

結の言葉が信じられなくて再度尋ねた。


「大丈夫なら。帰ってすぐ抱きたいんだけど」


急に強気になるのは良くないと思う。

でも、余裕なんてなかった。


夕方に感じた結の熱、匂いが忘れられなくて俺はいつだってその気になれる。


許してもらえるなら遠慮なんてしない。



照れもせず、戸惑うこともせず、いつもの調子で結は頷いた。




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