終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「じゃあ、律兎さんお疲れ様です。明日は朝早いんで今日は早く寝てくださいよ」
「わーったよ。お疲れ。送迎サンキュ」
車のドアを閉め、去っていくチュー多に手を振る。
マンションを見上げてため息。
結に会いたい。
抱きしめたい。
でも朝のことがあるし小窓に入室禁止とかあったらどうしよう。
そんなことを考えながらエントランスに入ると見覚えのある男がそこにいた。
胸がザワつく。
俺と目が合うと相手もハッと目を見開いた。
前に会った…結のストーカーだ。
「ここで何してる?」
全身黒の服に黒いキャップ。
あからさまに怪しい。
けど、目立たない格好をしてる割に堂々として、俺を睨みつけてきた。
「前は気付かなかったけど、結ちゃんの彼氏って白川律兎?大スクープだね」
「…だから?言いふらしたきゃ言いふらせよ」
「あんたみたいな男も夢中にさせるって、やっぱ結ちゃんっていいよな。あの顔は誰だって惚れるんだ」
笑いながら携帯を取り出し1枚の写真を見せてきた。
「俺のことなんて聞いてるか知らないけど、俺、結ちゃんの元カレだから」
画面に映る、見たこともない顔で笑う結との2ショット。
「言っとくけど。結ちゃん相当遊び人だよ。急に別れたいって言いだすから何事かと思えばあんたに口説かれてコロッと乗り換えたってわけ。まあ、売れっ子俳優でイケメンで地位も金もある男の方がいいよな。恋愛経験ないですーって言ってたろ?アレも嘘だから。つーかあの顔で経験ないわけないだろ。男選び放題みたいな顔してさ」
「黙れよ」
胸倉をつかみグッと引き上げる。
「聞いてもねぇこと長々と喋りやがって。元カレだからなんだよ。遊び人だからなんだよ。分かってんのはお前はもう結とはなんの関係もねぇってことだけだろーが」
そのまま軽く押し返す。
「振られた分際で新しい男との新居にまでストーカーか?みっともねぇな。これに懲りたら結に2度と近づくんじゃねぇぞ」
男は何も言わずチッと舌打ちをしてエントランスを出て行った。
慌てて男の写真を何枚か撮った。
キャップのせいで顔はあまり写ってないけど無いよりいいか…。