青の果てへと泳ぐきみへ
この海は深い。
宝石を溶かしたみたいに青く澄んでいるけれど、底が見えない。
覗き込んでいると時折、奥底に潜む何かに引き込まれてしまいそうな気がしてくる。
きれいで、静かで、冷たい青。
「……七瀬はさ、強いよね」
抱えた膝に視線を落としてぼそりと呟くと、「なにが?」と隣から怪訝そうな声が返ってきた。
「だってさ、ここってわたしたちのトラウマの場所なんだよ」
白い灯台の佇む小さな岬。
わたしたちと人魚姫の唯一の接点であり、
わたしたちが、死んでいたかもしれない場所。
わたしがずっと泳ぎが下手なのは、水に浸かるとどうしてもあの日の記憶が蘇ってしまうからだ。
もがくことも息をすることもできず、
ただゆっくりと沈んでいく感覚を。
いつも隣で何でもない顔をしているけれど。
七瀬だって、きっと、
こわいはずなのに。
「……そんなの、佐波だって同じだろ」
「わたしは七瀬がいてくれるから。七瀬と一緒だと、平気なの」
自分でもよくわからない。
人魚姫に会いたい。その一心で毎年ここへ来ているけれど、わたしだって怖いもの知らずなわけじゃない。
溺れかけた。死にかけた。
そんな場所に立つとやっぱり足が竦むし、あの日の後だってすぐにはここへ来ることができなかった。
……七瀬と会うまでは。
七瀬が隣にいると不思議と落ち着くのだ。
海への恐怖心が、すっかり和らいでしまう。