青の果てへと泳ぐきみへ
「……そんな謎の信頼寄せられても困るんですけど」
「あははそれもそうだね、二人とも泳げないのに」
どっちかがうっかり落ちても助けられないよね、なんて、自分で言ってなんだか可笑しくて。
それから少しだけ、さみしくなった。
「……泳げたらよかったのにな」
この町の海は、いつもそれほど波が立たなくて穏やかだ。
潮の香りを運ぶ風も、海鳥の鳴く声も、こうして七瀬と灯台の傍に座って身を任せていれば、みんなが気持ち良く迎えてくれる。
……わたしもこの海を泳いで、会いに行けたらいいのに。
おとぎ話の人魚姫が、人の姿になって王子様に会いに行ったように。
わたしにも、彼女に会いに行ける尾びれがあったら――
「佐波が泳げたら、会えなかっただろ」
寝転んでいた七瀬がふいに体を起こし、膝を抱えて座るわたしに肩を並べてきた。
急になんだろうと顔を向けると、彼の双眸と視線が交わる。
「……え?」
「あ、いや……泳げたらそもそも死ぬような目には遭ってないけど……でも人魚なんてそうそうお目にかかれるもんじゃねーし、それはそれで良かったんじゃないの」
光の加減で深い青が奥から透けて見えるような、澄んだ薄茶色。
そんな不思議な色彩を帯びたガラス玉のような瞳は、すぐに逸らされて。
決まりが悪そうにわたしの頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でてくる手は、いつもよりほんの少し乱暴だけれど。