青の果てへと泳ぐきみへ
 


……まさか七瀬、飛び込んだりしてないよね。


だって、泳げないのに。

学校のプールに足をつけることすらできないほど、水が苦手なのに。


(……わたしが、ちゃんと、泳げたら)


わたしが泳げたら、人魚姫には出会えなかった。


七瀬はそう言ってくれたけれど。
やっぱりわたしは、あの碧い尾びれがほしい。

このきれいで静かで冷たい海を自由に動き回れる、
助けてくれたあのひとの元まで会いに行ける、


(そう、まさに、こんな、――)



もうどこまで沈んだのだろう。
日の光がだんだんと遠のき、青が濃紺へと明度を落としていく。

そんな視界の中で、淡い光をまといながら揺らめく、柔らかな碧色。
透き通るほど美しい、人魚姫の、尾びれ。


……ああ、これだ。あの日と同じ。

やっと。

やっと、




《――この、ばか佐波》


誰かの腕の中に、包み込まれたような気がした。

頭を撫でてくるその手が心地良くて、ひどく安心して、
わたしはゆっくりと目を閉じて、そのぬくもりに体を預けた。


 
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