青の果てへと泳ぐきみへ
 


夕暮れの海に、碧い人魚。
ずっと焦がれていた。
会いたくてたまらなかった。

でもおとぎ話の中から飛び出してきたかのような光景はあまりにも非日常的で、
夢なのか現実なのかよくわからない。


「……泳げないなんて、嘘じゃん」

「そーね。実はめっちゃ泳げる」

なんならうちの高校で一番泳げるわ、と人間離れした美しい顔に似つかわしくない軽口で返してくる彼に、少しほっとする。

ああやっぱり、見た目は違えど、七瀬だ。


「七瀬、上がってこれる?」

「ん? うん」

「隣、来てほしい」

今度は断られず、七瀬は二つ返事でわたしの座る岩の上へ上がってきた。

ザバァ、と波打つ水から現れた、七瀬の“魚”の部分。腰から下に普段見慣れた二本の足はなく、夕日を反射して輝く鱗に覆われた碧い皮膚が、ひらひらと海中をたゆたう尾びれへと続いている。

溺れて気絶しかけた状態でしか見たことのなかった、あの碧色。

子どもの頃の記憶の答え合わせをするように、つい不躾に見つめてしまう。



「……怖くない?」

七瀬の声に視線を上げると、彼のガラス玉のような瞳にとらえられた。


 
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