青の果てへと泳ぐきみへ
 


光の加減で深い青が奥から透けて見えるような、澄んだ薄茶色の虹彩。
今はその中に、海の濃紺と月の光のような金色も揺らめいて見える。


怖くないか、と彼は問う。

二度わたしを飲み込んだ、目の前に広がる海。
本当は人ではなく、あの日の人魚だった七瀬。

さっきまで心細かった。
体の力が抜けて、震えが止まらなかった。
でも、今は。


わたしは首を横に振り、彼の頬を両手で包んだ。


「こわくないよ。七瀬、すごくきれい」


七瀬は一瞬丸めた目を、すぐに柔らかく細めて。
はあ、と呆れたように息を吐いて。
シャツの袖口から伸びる美しい鱗の並んだ腕で、わたしの体を抱き寄せた。

「……佐波、無事でよかった」

「……うん、」

頷いて、彼の背中にわたしもそっと腕を回す。
腕の中は、潮のにおい。
鱗は硬くざらざらとしていて、肌に触れると少しくすぐったい。

頭を撫でてくれる彼の手はいつもよりひんやりと冷たいけれど、


「あの日も今日も。助けてくれてありがとう、七瀬」


やっぱりいつもと変わらず、安心した。


 
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