青の果てへと泳ぐきみへ
「あっ、だーかーら浮き輪は今日はいらないって!」
「寝言は寝て言えよ、ちょっと足がつかなくなったらすぐ沈むくせして」
「そういうのに頼ってたらいつまで経っても上達しないんです! 今日はこの身ひとつで頑張る」
それに、いざとなったら七瀬が助けてくれるでしょ?
灯台の下でスニーカーと靴下を脱ぎながらにっと笑ってみせるわたしを一瞥して、七瀬――10年前この海で溺れていたわたしを助けてくれた人魚は、観念したように浮き輪を岩陰に置いた。
「……佐波はとりあえず、泳ぐより浮く練習から」
「はーい」
「じゃ、俺潜ってるからさっさと着替えて」
「りょーかいです」
返事をしてまもなく、彼の姿は見えなくなり、元いた海面には小さな泡と波紋が残された。
相変わらずだなあと思いながら、わたしも灯台の陰に隠れてせっせと制服を脱ぎ始める。
高校の授業用の水着をあらかじめ制服の下に着て来ていたから、着替えにそれほど時間はかからない。
水泳キャップまでしっかりかぶって、岩場から海に向かって「準備できたよ」と声をかけると、耳元にひれ、額や目元にきれいな鱗のついた頭が再び海面から現れた。