青の果てへと泳ぐきみへ
「……じゃあ、七瀬の魔法は解けちゃったんだ」
「そういうこと。佐波に正体がバレたから」
水泳の授業をずっと見学していたのは、うっかり人前で人魚の姿に戻ってしまわないようにするため。
何がきっかけになるかはわからなかったけれど、一度元の姿に戻ってしまえばもう二度と人の姿になることはないだろうという予感はあったらしい。
「……それに、佐波の願いが叶ったから」
「……わたしの?」
「岩が光っただろ、俺が人魚に戻った日」
……夏休みの初め。あの、二度目のことだ。
「でも、岩が叶えるのは人魚の願いだけじゃ、」
「さあ、それはただの言い伝えだから。強く願えば人魚も人間も関係なかったのかもな」
本当はもう、ずっとずっと前、ふたりが再会した時に、人魚の望みは叶っていた。
そしてその子もまた人魚を探していて、そんなに会いたいならと何度も正体を明かしてしまおうと思った。
でも一緒に過ごす日々が楽しくて、
離れがたくなってしまって、
「……ごめんな、10年も待たせて」
七瀬に頭を撫でられ、わたしは笑って首を横に振る。
ううん、七瀬。
わたしの方こそ、ありがとう。
わたしにまた、会いに来てくれて。
わたしの願いを、叶えてくれて。