青の果てへと泳ぐきみへ
目を覚ますと、わたしは冷たい海の中ではなく、お母さんのあたたかい腕の中に抱き込まれていた。
岬近くの海岸で横たわっていたのを、探しに来た両親が見つけてくれたらしい。
体に目立った怪我はなく、帽子もいつの間にか手元に戻ってきていた。
けれどそこにいたのはわたし一人だけで、海の中でわたしの手を取り助け出してくれた誰かの姿はどこにも見当たらなかった。
岬の岩壁の光も、いつの間にか消えていた。
まるで絵本で読んだおとぎ話。
でもわたしは確かに見た。
夢なんかじゃない。
手に触れた感触を、あのきれいな碧色を、今でもこんなにはっきりと覚えてる。
あのひとはきっと、――人魚姫だ。
もう一度だけでいい。
会って、お礼を言いたくて。
それからというもの、わたしは毎年夏になるとこの岬へ足を運び、時には一日中海を眺めながら、
彼女がまた現れやしないかと、ずっとずっと待ち続けている。